調査室の空気は、いつになく静かだった。
いつもの四人に、もう一人。フィオナがチームの一員として加わっていた。
だが、その眼差しは決意と戸惑いの入り混じったものだった。
ティリットがパソコンの前から顔を上げる。
「今からEの過去の通信ログに、フィオナが使っていたサブ端末の情報を照合する。つまり、共犯の痕跡がどこまで残っているかを掘り下げる」
フィオナが小さくうなずく。
「私が使っていたのは一部の暗号化チャットと、通信中継サーバー。けれどEの中核にいる人物、そいつは私にも本名を明かさなかった」
セレネが尋ねた。
「どんな特徴があったの?言葉遣いや、時間帯、会話の癖、あるいはアクセスのタイミングでもいい」
フィオナは数秒間沈黙したあと、ぽつりと口を開いた。
「Eは、情報のやり取りを夜の午前2時から4時に限定していたの。毎回、細かい演出にも気を配っていたわ。『真の支配者は姿を明かさない』って」
「つまり、相手は日中は人目を避け、夜にだけ行動する。そういう生活リズムの人物……」
アルテミスが思案する。
「そして何より、一度だけ彼の発言に学園の内部事情に深く通じているような内容があった。特別教室のカメラの死角、推薦システムの裏口、特定の先生が使う非公開資料室の鍵コード」
リベルタが顔を上げた。
「その知識を持つのは限られている。生徒でありながら、内部の機密を知っていて、夜行性。つまり、影の中で動く生徒」
ティリットが画面を操作し、言う。
「アクセスログと、夜間に学内ネットに頻繁に出入りしている人物を抽出する。いた、ヒットした」
セレネが画面をのぞき込む。
「このID、EID-β43。ユーザー登録情報は偽装されてるけど、内部ログの習慣から逆引きできるはず」
ティリットが素早くプログラムを走らせる。
そして数十秒後、画面にひとつの名前が表示された。
【検出ID:Chevalier.Renleigh】
一同の顔色が変わる。
「シュヴァリエ・レンリー……」
アルテミスが低くつぶやいた。
フィオナが目を見開く。
「嘘……あの子がE? 私はてっきり、彼はただのスピーカーだと……」
リベルタが目を細める。
「シュヴァリエは、初めからこの選挙戦を舞台に変えようとしていたんだ。候補者同士をぶつけ、推薦人を脅し、世論をあやつる劇場の演出家」
セレネが言った。
「つまり、リリアンはEの駒のひとつだった。真にゲームを仕組んでいたのは、シュヴァリエ本人」
ティリットが呟く。
「静かに、正しく、美しく振る舞うあの完璧な少女が、“闇の支配者”だったなんてな……」
フィオナは震える指先でテーブルの端を掴んだ。
「彼女はいつも私たちに優しかった。弱い立場の子を助け、争いを止めようとさえしてた。でも、それすらも演技だったの?」
アルテミスが静かに答えた。
「あるいは、彼は本気で救っていたのかもしれないわ。でもそれは、彼の定めたルールに従う者だけ。従わない者には、罰を」
リベルタが席を立つ。
「動こう。Eの正体がわかった今、次の一手はこちらの番だ」
「舞台の主役を、今度は私たちが引きずり出す」
アルテミスが続ける。
そして、静かに灯った調査室のランプが、これから始まる最後の戦いの幕開けを照らしていた。
いつもの四人に、もう一人。フィオナがチームの一員として加わっていた。
だが、その眼差しは決意と戸惑いの入り混じったものだった。
ティリットがパソコンの前から顔を上げる。
「今からEの過去の通信ログに、フィオナが使っていたサブ端末の情報を照合する。つまり、共犯の痕跡がどこまで残っているかを掘り下げる」
フィオナが小さくうなずく。
「私が使っていたのは一部の暗号化チャットと、通信中継サーバー。けれどEの中核にいる人物、そいつは私にも本名を明かさなかった」
セレネが尋ねた。
「どんな特徴があったの?言葉遣いや、時間帯、会話の癖、あるいはアクセスのタイミングでもいい」
フィオナは数秒間沈黙したあと、ぽつりと口を開いた。
「Eは、情報のやり取りを夜の午前2時から4時に限定していたの。毎回、細かい演出にも気を配っていたわ。『真の支配者は姿を明かさない』って」
「つまり、相手は日中は人目を避け、夜にだけ行動する。そういう生活リズムの人物……」
アルテミスが思案する。
「そして何より、一度だけ彼の発言に学園の内部事情に深く通じているような内容があった。特別教室のカメラの死角、推薦システムの裏口、特定の先生が使う非公開資料室の鍵コード」
リベルタが顔を上げた。
「その知識を持つのは限られている。生徒でありながら、内部の機密を知っていて、夜行性。つまり、影の中で動く生徒」
ティリットが画面を操作し、言う。
「アクセスログと、夜間に学内ネットに頻繁に出入りしている人物を抽出する。いた、ヒットした」
セレネが画面をのぞき込む。
「このID、EID-β43。ユーザー登録情報は偽装されてるけど、内部ログの習慣から逆引きできるはず」
ティリットが素早くプログラムを走らせる。
そして数十秒後、画面にひとつの名前が表示された。
【検出ID:Chevalier.Renleigh】
一同の顔色が変わる。
「シュヴァリエ・レンリー……」
アルテミスが低くつぶやいた。
フィオナが目を見開く。
「嘘……あの子がE? 私はてっきり、彼はただのスピーカーだと……」
リベルタが目を細める。
「シュヴァリエは、初めからこの選挙戦を舞台に変えようとしていたんだ。候補者同士をぶつけ、推薦人を脅し、世論をあやつる劇場の演出家」
セレネが言った。
「つまり、リリアンはEの駒のひとつだった。真にゲームを仕組んでいたのは、シュヴァリエ本人」
ティリットが呟く。
「静かに、正しく、美しく振る舞うあの完璧な少女が、“闇の支配者”だったなんてな……」
フィオナは震える指先でテーブルの端を掴んだ。
「彼女はいつも私たちに優しかった。弱い立場の子を助け、争いを止めようとさえしてた。でも、それすらも演技だったの?」
アルテミスが静かに答えた。
「あるいは、彼は本気で救っていたのかもしれないわ。でもそれは、彼の定めたルールに従う者だけ。従わない者には、罰を」
リベルタが席を立つ。
「動こう。Eの正体がわかった今、次の一手はこちらの番だ」
「舞台の主役を、今度は私たちが引きずり出す」
アルテミスが続ける。
そして、静かに灯った調査室のランプが、これから始まる最後の戦いの幕開けを照らしていた。


