薄暗い図書室の一角、アルテミスは重い扉の向こうでひとり静かに待っていた。
フィオナ・グレイは遅れて現れた。表情は固く、しかしどこか決意に満ちている。

「話を聞きたい、そう言ったのはあなたね」

フィオナは低い声で言った。

「ええ、あなたがFとして動いていることはわかった。なぜ、そんなことをしているのか、教えてほしい」

フィオナは深いため息をついた。

「動機か、それは複雑よ。学園の中で私たちは、声を持たない存在だった」

「声?」

「そう。キャサリンのような目立つ存在や、リリアンのように強力な支配者がいる中で、私たち普通の生徒はただの影。選挙も、学園のルールも、全てが彼らのためのものだった」

彼女の目が揺れる。

「Eの計画は、単なる妨害じゃない。混乱の中から、私たちのような見えない者が力を得るための手段だった」

アルテミスが問いかける。

「それは支配の輪を広げること?つまり、あなた自身が新たな権力を欲している?」

フィオナは唇を噛みしめる。

「権力?それは違う。私は、ただ学園が公平な場所になってほしいだけ」

「それなら、なぜ密かに陰謀を張り巡らせ、推薦人を脅すようなことを?」

「表立っては何も変わらない。静かな者が声を上げることは難しい。だから、恐怖や混乱を利用して、皆の意識を揺さぶりたかったの」

アルテミスの瞳が鋭く光る。

「あなたの恐れは何?なぜ、そんな手段を選んだの?」

フィオナは涙をこらえながら言った。

「私は恐れているの。再び無視され、消えてしまうことを。誰にも知られず、存在さえも否定されることを」

リベルタが静かに頷いた。

「その恐れが、あなたをEの一員にしたのね」

セレネが深く息をつき、言った。

「恐れから来る行動は理解できる。だが、傷つけ合うことで何も解決しない」

ティリットが言葉を継いだ。

「だからこそ、俺たちはみんなの“声”を取り戻す戦いをしなきゃならない」

フィオナは涙を流しながらも、やがて静かに頷いた。

「ありがとう、私の動機を聞いてくれて」

アルテミスは微笑みを返して言った。

「真実はいつだって複雑。でも、理解し合うことから始まるの」

四人の間に、かすかな和解の光が差し込んだ。