狐耳の子どもに手を引かれて神社の敷地内に入った俺は、そのまま手水舎のところへ連れてこられた。
神社に来たなら清めるのは当然か、と思っていた俺は、水盤を見たとたん顔をしかめる。

「なんだこれは……」

思わずつぶやいた。
花が敷き詰められた水盤は、確か花手水と言うんだったか。
別に花が嫌いなわけでもないし、写真などで見たことのある花手水は純粋に綺麗だと思った。

だが、これは……。

「紫陽花に、ひまわり? 薔薇まであるのか? なんだこのごちゃ混ぜ状態の花手水は」

複数の種類を使っても良いとは思うが、もう少し統一感とか考えるべきじゃないか?
何にせよ、俺のポリシーに反するような花手水は心を清めるという本来の役割を果たせていないように感じた。

だが、手を引いていた狐耳の子どもは小首を傾げて俺を見上げる。

「え? でも綺麗だよね?」
「……それは、まあ」

綺麗じゃないとは言わないが、と答えあぐねていると、もう片方の手を誰かに引かれた。
驚いて見ると、今度は狐耳の子どもと同じくらいの猫耳をつけた女の子が俺を不満そうに見上げている。
妖怪でも模しているのか、尻尾は二本ついていた。

「綺麗でしょ!? アタシがキミのために生けたんだよ?」
「そうそう、色んな花が好きって言ってたもんね」

猫耳の子の言葉に、狐耳の子が笑顔で同意する。

いや、そんなこと言った覚えはないんだが……という言葉は、同時に両手を引かれたことで喉の奥へ引っ込んだ。

「さ、次はこっち!」
「みんな待ってるよ!」

「ちょっ、こら待て! 引っ張るな!」

増えてしまった子どもに引かれ、俺は境内へと足を向けた。