神社の敷地内に入った途端、空気が澄んだものに変わった気がした。
しっかり清められているのか、境内には枯葉ひとつすらない。

「とてもキレイな神社……」

あまりにもキレイで、さっきまでのイライラが少し軽くなった気がした。
こんなキレイな神社なら、今度ちゃんとお参りに来たいな。
なんて思いながら、私は人を探した。

「えっと、まずはどんな神様を祀っているのかだよね?」

調べ物は、地元に神社がいくつあるのかと、その神社ではどんな神様を祀っているのか。
そして、出来れば神社の由来を調べることだ。

図書館でも調べられるかもしれないけれど、いくつか写真もつけたいからって事で直接その場所に行くことになった。
そして、だったらその神社の神主さんとかに聞ければ一番だよね、と言い出したのは今日用事があるからと早々に帰ってしまったあの子。

まったく、面倒ごとだけ押しつけて……。

思い出して、またイライラが戻ってくる。
でも、その怒りをさらうように突然ふわりと花の香りがした。
香りに誘われるまま、そちらを見ると手水舎がある。

なんだか、カラフルだ。

香りと色彩に誘われて近づくと、手水舎の水盤には数種類の花が浮かんでいた。
向日葵・ガーベラ・紫陽花・カーネーション。
色とりどりの花手水。

確か、花手水は手や口を清めるというよりも心を清めるという目的だったかな?
神社のことを軽く調べていたときに知った。

「確かに、綺麗で心が癒やされる感じはするね」

イライラが治まっていくのを感じてつぶやく。
そしてみんなにも見せたいな、と思ってスマホで写真を撮った。

……でも、出来るならみんなにこの香りも感じて欲しい。
やっぱり、みんなで来られれば良かったのに。

怒りは落ち着いたけれど、代わりにほんの少し寂しさが浮き上がる。
もの悲しい寂しさを胸に、私は甘い香りに背を向け境内へと戻った。