赤い鳥居をくぐり抜けた途端、サァっと爽やかな風が吹いた。
ついさっき砂埃を巻き上げたつむじ風とは全く違うそれに、清浄な空気すら感じる。

その風と共に、桜の花びらが数枚舞う。
薄桃色の花びらをたどると、比較的小さな桜の木があった。
桜が咲く季節だったっけ? と一瞬不思議に思ったけれど、舞い落ちる花弁が手水舎の水盤に浮かぶさまはどこか幻想的で……。

その美しさに誘われるように、置かれていたひしゃくを手に取った。

「……参拝するならお清めしなきゃね」

左手を清め、右手を清め、左手に水をためて口をすすぐ真似をした。
最後にひしゃくを立てて柄を清め、元の場所に戻す。

この作法も、彼に教えてもらったんだっけ。

思い出すと、ツキンと小さく胸が痛んだ。
でも、さっきまでの燃えるようなつらさは無い。
清浄な空気と清らかな水で、燃え尽きてしまいそうだった感情が少し落ち着いたのかもしれない。

この恋は、桜のように儚く散った。
そう、思えるようになってきているのかもしれない。

ここでお参りすれば、ちゃんと気持ちに区切りをつけられるのかな?

願いを胸に、私は境内へと足を進めた。