『やっぱり、死ぬなら夏がいいよ』

 彼女は言った。

 『縁起でも無いこと、言わないでよ』と、僕は言えなかった。
 
 百年に一度やってくるザネリ彗星。
 その、仄かな尾を見つめる彼女の横顔に、見とれていたから。

『きみは、星って呼ばれてるあれが、本当は何か知っている?』

 五年前の今日。

 彼女は、夜空のくらやみに悠々と横たわる光の帯を眺めながら、僕に問いかけた──彼女の名は、東条維麻(とうじょういま)
 僕と同い年で、僕の恩人で、よく笑う、少し強引なところがあって、おしゃれが好きで、しょっちゅう鼻唄を口ずさんでいて、アイスクリームが好きで、十五才で死んだ、女の子だ。
 彼女のさいごの日々、僕らは恋人だった。

 一緒に夜空を見上げたあの日は、今夜と同じ雨上がりの匂いがした。
 あの夜、彼女はたしかに生きていて、身体の内側から淡く発光するみたいに、いのちを燃やしていた。
 遠い星あかりを眺める維麻の横顔は、あまりに透き通っていて。
 本当に、つまらない答えしか返せなかった。

『星は星だろ。正確に言えば、恒星だよね。自分で燃えてる星の光』
『そうじゃなくてさ』

 静かに、けれども本当に嬉しそうに、どこかイタズラっぽく微笑む維麻が、今もまだ瞼の裏に焼き付いている。

 ソフトクリーム座とか、
 パンタグラフ座とか、
 やきそば座とか、丸メガネ座とか。

 夜空に光る星を集めて、素敵なものを作るのが得意な人だった。
 僕はじっと、維麻の次の言葉を待った。
 
 祈るように、歌うように。
 彼女は、自分で発した問いの答えを、おろかな僕に教えてくれた。
 
「あれは、本当はね──」