「私……中学生の頃から陸上やってたの。高校二年生になって……やっと、大きな大会……高校総合体育大会(インターハイ)の短距離走の選手として選ばれたんだ」

……高野も陸上をやっていたのか……。
しかも、俺と同じ……短距離走。

高校総合体育大会(インターハイ)に出ることが夢だったからすごく嬉しくて、練習も人一倍頑張ったんだ」

懐かしそうに話す高野の表情(かお)が急に曇った……。

「……それが、いけなかったのかな……」

ポロッ……と、呟くように言った……。

「ーーっ……」

なんとなく……だけど、嫌な予感がした……。

「私……大会直前の練習中に派手に転んじゃって……大会……出られなくなったんだ……」

「……っ……」

「あっ、でもっ! 控えの選手がいたから……部としては何の問題もなかったんだけど。すごく悔しかった……。今までコツコツと練習してきて、ようやく一人の短距離走の選手として認められた。夢が叶う……って、思ってたから…その分、ショックも大きくて……」

高野の気持ちがよく分かる……。

希望に胸を膨らませ、憧れていた高校総合体育大会(インターハイ)出場。

それが目の前にして一瞬で崩れ去ってしまった絶望感は計り知れない……。

「私の高校の陸上部はね……たとえ、どんなに自分が複雑な感情を抱いていたとしても……自分のかわりに……部の……はたまた学校の期待を背負って、大会に望む選手の心情を考えればこそ、応援は選手の力になるのだから……って、いう考えがとても強くて……例え……嫌でも行かないわけにはいかなった……」

とても辛そう表情(かお)を浮かべながら高野は話を続ける……。

「松葉杖をつきながら……二階席の応援席へと向かってる時……手前から歩いてくる人物(ひと)がいたの……。その人物(ひと)は駿くんだった。駿くんは同じ部の多分……同級生の人だと思うんだけど……その人と話をしながら私の方に向かって歩いてた。すれ違いざま……」

その時のやり取りが瞬時に俺の頭の中に蘇ったーー……。