俺は入院する高野の元へと通い続けた……。

その際、高野と一緒に水族館に行った時に別れ際に渡せなかったペンギンのぬいぐるみをプレゼントした。

突然の俺からプレゼントに高野は驚いていた。

中身を見て……それがぬいぐるみだと分かった途端……すごく喜んでその日からいつも傍らにそのぬいぐるみを置いて、可愛がっていた。

高野の病気の進行は『若年』と、いうこともあり、俺が想像しているよりもずっと早かった……。

瞬く間に身体(からだ)が動かしづらくなってゆくにつれ…介助の手を必要とすることも多くなっていき、それに伴って……胃ろうや呼吸器等『生きるため』の医療処置も次々と行われていった……。

死へと向かってゆく高野の姿を俺は傍で見ていることしか出来ない自分に苛立ちを感じていた……。

それは俺だけではなくて……高野両親や長瀬も口には出さないが同じような気持ちを抱いていたと思う……。

そう、思う俺達以上に……高野は一人……苦しみ、哀しみ、葛藤、怒り……等といった当事者にしか分からない思いを抱えていたはずだ……。

それなのに高野はいつも気丈に振る舞い、一度としてそういうやるせない胸の内を口にすることはなかった……。

……何故?

俺達以上に言いたいことがあるはずだ……。

なのに、どうして……。

これは俺の憶測だけど…高野なりの気遣い……なんじゃないのか……と。

ーー悲しませたくない……。出来ることなら……いつも笑って、幸福(しあわせ)でいてほしい……ーー

そう紡いだ自分の言葉を守りら着実に死へのカウントダウンが迫りつつある中……自分のことよりもこの先も生きてゆく俺達のことを想い、願ってのこと……だと、思った……。

だから……高野の想いを踏みにじるようなことはしたくなかった……。

高野に無理をしている……と、悟られないように……最新の注意をはらいながら、出来るだけ高野の前では笑って楽しい話ばかりをした。

ALSは眼球を動かす筋肉が侵されにくいので、五十音が書かれたアクリルボードを使い、目の動きから会話をするダブルクロストークで、高野とのコミュニケーションが図れていたけれど……それも次第に高野が目を開けることさえ難しくなっていき……唯一残されていた高野のコミュニケーション手段も途絶えてしまった……。

寝ているのか……起きているのか……分からない状態……。
しかも、こっちがどんなに話しかけても……高野からの反応(へんとう)はない……。

そんな状態でも俺は変わらず、高野の傍にいて、耳元で話しかけ続けたーー……。