俺の両親は銀行幹部の一人娘であった母とその取引先の企業の経営者の息子であった父は政略結婚で結ばれた夫婦だ。

父は母のことを愛そうとしていたけれど……その想いは母に届いてはいなかった……。

それどころか……仕事柄、多忙で滅多と家に帰らず、父よりも十七歳も年下の母は滅多と帰ってこない父に対して寂しさを募らせていった……。

俺が生まれてから暫く経つと……母は家事と育児は全て家政婦さん任せで昼夜問わずにお酒と男性を求めて、遊び歩いた……。

そんな母に父は何も言わなかった……。

正確には言いたくても言えなかったのだと思う……。

仕事が多忙で寂しい思いをさせてしまった……と、いう申し訳なさと『政略結婚』と、いうしがらみ……。

仮に自分が妻のことを非難すれば……両者の関係性が悪くなるどころか、銀行からの融資が受けれなくなる可能性もあり、母から見れば父は弱い立場にいた……。

そんな母に対して、徐々に父の気持ちは離れ、二人の間に愛情は全くなかった…。

けれど……世間体を気にして、社交場では仲の良い夫婦を演じていた。

いわゆる『仮面夫婦』と、いうやつだ。

そんな夫婦関係の真実を世間の人達はどこまで正しく知っているのか……
はたまた、騙されているのか……は分からない……。

そういう理由(わけ)で両親は家にいないことが多く、子どもながらに哀しく、淋しい思いをずっと抱いていた……。

両親の代わりに家政婦さんが常に家にいたけれど……仕事柄、一線を置いた淡々とした対応しかしてもらえず、とてもじゃないが甘えられる雰囲気ではなかった……。

そんな家庭環境の中で俺は育ち、とてもじゃないけど……『家族』と言い難い、この環境から早く抜け出したくて大学進学を期に一人暮らしを始め、大学ニ年生になっていたーー……。