「長瀬っ!」

三限目の講義を終えて、すぐさま長瀬に声をかけた。

長瀬は友達と喋りながら教科書やノート、筆記用具等を片づけていた。

俺は構うことなく、言葉を発した。

「高野……大学辞めたのか?」

「……」

「なぁ、どうなんだよっ!」

「……」

俺の言葉を無視する高野に苛立ちが募る……。

「教えてくれっ!」

「……」

「頼むっ‼」

長瀬の友達はそんな俺を気の毒そうに見つめ、
『次の講義の教室に先に言ってるね』と、早口に言うと、その場から去っていった……。

「長瀬、頼むから教えてくれっ‼」 

なおも懇願し続ける俺に長瀬はあからさまなため息をついた後、やっと口を開いてくれた…。

「……どうして、あんたに教えなきゃいけないの?」

「ーーっ……」

「一ヶ月」

「えっ……」

「一ヶ月だけだったよね? あんたとなずなが付き合うの。その後はもう……一切関わらない関係になったはず。なのに、なんで今更……なずなのこと気にするわけ? おかしくない?」

「……」

返す言葉がなかった……。

確かに……長瀬の言う通りだ。

よっぽどのことがない限り……もう一切、何の関係もない高野のことを今更、気にかけるなんて……。

以前の俺だったら……きっと、気にもとめなかっただろう……。

でも、今は違う。

気になって、仕方がない……。

なんで高野は何も言ってくれなかったんだろう……。

どうして……。

また一つ……答えの分からぬ問いが増え、俺の頭の中をぐるぐると巡る……。

「そういうことだから……」

鋭い瞳で睨まれ、長瀬は教室を出ていった……。

長瀬の言葉は間違っていない。

けれど……今の俺は物分かりよく、納得することが出来なかった……。

だから……次の日もその次の日も俺は高野の聞くために長瀬に声をかけたが、何も教えてはくれなかった……。

それでも俺はどうしても高野のことが知りたかったから、諦めずに毎日、長瀬に声をかけ続けていた。