水族館に入ると……そこは別世界が広がっていた……。

館内全体は最低限度の暗めな照明が灯り、各水槽ごとにクラゲやヒトデ、えびやカニ等の甲殻類等に分けられ、それぞれが適した環境の中で展示されていた。

館内中央には天井まで伸びた高く大きな円筒の水槽があり、小さな魚たちは群れをなし、忙しなく泳いでいて、大きな魚はゆったりと優雅に泳いでいた。

俺と高野は一つ、一つの水槽をゆっくり見て回った。

だから、当然歩きも遅いはずだが……不意に高野の身体(からだ)がよろけた……。

「ーーっ……」 

俺はまた、転けそうになった高野を素早く抱きとめた。

「……怪我……ないか?」

「あっ、うん……」

高野が『大丈夫』と、言ったので俺はそっ…と、腕を離して高野から距離を取った。

「ホント、高野はおっちょこちょいだな…」

高野が俺にしつこくつきまとっていた時には気にもならなかったが、こうして高野ときちんと向き合うようになってから…高野は不意に躓いたり、何かの拍子にものにぶつかったりすることが多々あることに気づいた。

「あははっ……」

高野は苦笑いを浮かべて言う。

「そーだね。今日はブーツが履き慣れていないせいかも……。ホント、ごめんね。助けてくれてありがとう」

「ブーツが履き慣れていないって、言うなら……」

少々、強引とも思ったが……また、躓いて転けるようなことがあっては……と、心配した俺はさっと、高野の手を取り、繋いだ。

「これなら、転けることはないだろ?」

「ーーっ……」

やんわりと言い、高野を見ると……目を丸くして驚き、みるみる内に顔が真っ赤に染まっていった。

よく見ると耳の方まで真っ赤だ……。

そ、んな表情(かお)すんなよっ!
こっちまでテレて、恥ずかしくなるだろう……。

そう、口から言葉が出そうだった……。

ぐっ…と、その言葉たちを飲み込み……館内な暗くて高野の表情がよく見えなかった……と、いうことにして、俺は素知らぬふりを決め込み……
『ほらっ、次行くぞっ!』
と、声をかけてから、高野の手を引いて次の展示物コーナーへと向かったーー……。