「凛……と、した表情で、力強く紡がれた言葉と長距離走に想いを馳せる駿くんの気持ちがスゴイな、すごくカッコいいなって、思ったの。私は……ケガがちゃんと治っても、そういう気持ちにはなれなかったから……」
「……っ……」
「……結局……途中で陸上部……辞めちゃったんだよね。だから、ずっと陸上続けてる駿くん……本当にスゴイし、すごくカッコいい……」
へらっ……と、笑う高野の表情がとても苦しそうで、哀しそうに見えてしまった……。
怪我が原因で陸上を辞めていく人や思うような成績を残せずに自分の限界を感じて去って行く人を見たことがあるから……高野がそういう表情になってしまうのも分からなくもなかった……。
俺はただ、運が良かっただけだ……。
怪我をして、思うように短距離走は走れなくなってしまったけれど……長距離走でまた、走ることが出来るようになったのだから……。
ーーお前は走るのが早いから、絶対に陸上をやった方がいいっ!ーー
その一言があったから……。
その一言にどれだけ俺が救われたか……。
もし、その言葉がなかったら……俺は陸上をやっていなかったし、そもそも何か一つのことに熱心に取り組むなんてこともなかったと思う……。
「そんな凄くないし、カッコよくもない……。俺は……褒めてもらえたことがすごく嬉しかったから……今も続けられてるだけだ」
少し照れくさいこともあって……俺は遠くを見つめながら、ボソッ……と、呟いた……。
「……それと、負けず嫌い……」
視線を高野に戻して、ニッ……と、笑ってみせた。
すると…高野はきょとんとした後……『くすっ……』と、口許を緩めて笑った。
二人で笑いあった後……。
「……駿くん……」
高野が真っ直ぐ俺を見つめて言った。
「私ね……陸上は諦めてしまったけど……駿くんのことは諦めたくないの……。何度、告白して断られても、うざがられても……諦めきれない……」
「……」
「ねぇ、駿くん……一ヶ月……」
俺の目をじっ…と、見つめたまま……高野は話し続けた。
「大学二年生の後期が終わるまでの約一ヶ月間……その間だけでいいから私と付き合って下さいっ……!」
「ーーっ……」
「その一ヶ月間、駿くんが私と付き合ってくれたら……その後はキッパリと駿くんのこと諦めるからっ! もう、二度とつきまとわないし、告白もしないっ……」
「……」
「だから、お願いっ!」
ガバッ‼
高野が勢いよく頭を下げた……。
「お願いしますっ‼」
思いもよらぬ高野からの申し出に俺は戸惑う……。
「えっ、ちょっ…」
部活終わりの夕暮れ時…。
しかも、駐輪場。
頻繁に他の生徒が来ることはなさそうだが…もしも…と、いう場合もあり得る…。
あらぬ誤解を招いて、お互いの体裁が悪くなってはたまらない…と、思った俺は高野に頭を上げるように声をかける。
その一方で…
『どうしたらいいんだ…』と、戸惑いながらも必死に思考を巡らす。
そこまでして、高野はこんな俺と付き合いたいのか…?
しかも、交換条件つきの交際って…。
それは純粋に付き合っていることには、ならないような…気がする…。
いや、待て…この交換条件つきの交際をすれば…今後一切、高野につきまとわられることはない…。
一ヶ月…一ヶ月我慢すればいいだけのこと。
一ヶ月なんて、あっという間…だ。
それで平穏無事な学生生活を送れるのなら…俺にとってもいい条件ではないだろうか…。
俺は自分の都合の良い解釈をして、結論づける。「ー分かった」
「ーっ…」
「それで高野の気が済むのなら…付き合うよ」
「…ほ、んと…?」
コクッ…。
俺は静かに頷いた。
「…やっ…やったー‼」
高野は両手をこれでもかっ…と、いうくらい空に向かってのばし、全身で喜びを表現した。
…そんなにも嬉しいものなのか…?
お互いに想い合っていて、その想いが通じ合ったからこそ…付き合うと、いうことに喜びを感じるわけで…俺達のように、一方だけが想いを寄せ、しかも交換条件つきで付き合うなんて…あまりにも動機が不純すぎるのに…
「ありがとう…駿くんっ‼」
この喜びよう…。
頬を赤く染め、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる高野の心情が理解出来ず…俺は冷ややかな瞳で見ていたー…。
「……っ……」
「……結局……途中で陸上部……辞めちゃったんだよね。だから、ずっと陸上続けてる駿くん……本当にスゴイし、すごくカッコいい……」
へらっ……と、笑う高野の表情がとても苦しそうで、哀しそうに見えてしまった……。
怪我が原因で陸上を辞めていく人や思うような成績を残せずに自分の限界を感じて去って行く人を見たことがあるから……高野がそういう表情になってしまうのも分からなくもなかった……。
俺はただ、運が良かっただけだ……。
怪我をして、思うように短距離走は走れなくなってしまったけれど……長距離走でまた、走ることが出来るようになったのだから……。
ーーお前は走るのが早いから、絶対に陸上をやった方がいいっ!ーー
その一言があったから……。
その一言にどれだけ俺が救われたか……。
もし、その言葉がなかったら……俺は陸上をやっていなかったし、そもそも何か一つのことに熱心に取り組むなんてこともなかったと思う……。
「そんな凄くないし、カッコよくもない……。俺は……褒めてもらえたことがすごく嬉しかったから……今も続けられてるだけだ」
少し照れくさいこともあって……俺は遠くを見つめながら、ボソッ……と、呟いた……。
「……それと、負けず嫌い……」
視線を高野に戻して、ニッ……と、笑ってみせた。
すると…高野はきょとんとした後……『くすっ……』と、口許を緩めて笑った。
二人で笑いあった後……。
「……駿くん……」
高野が真っ直ぐ俺を見つめて言った。
「私ね……陸上は諦めてしまったけど……駿くんのことは諦めたくないの……。何度、告白して断られても、うざがられても……諦めきれない……」
「……」
「ねぇ、駿くん……一ヶ月……」
俺の目をじっ…と、見つめたまま……高野は話し続けた。
「大学二年生の後期が終わるまでの約一ヶ月間……その間だけでいいから私と付き合って下さいっ……!」
「ーーっ……」
「その一ヶ月間、駿くんが私と付き合ってくれたら……その後はキッパリと駿くんのこと諦めるからっ! もう、二度とつきまとわないし、告白もしないっ……」
「……」
「だから、お願いっ!」
ガバッ‼
高野が勢いよく頭を下げた……。
「お願いしますっ‼」
思いもよらぬ高野からの申し出に俺は戸惑う……。
「えっ、ちょっ…」
部活終わりの夕暮れ時…。
しかも、駐輪場。
頻繁に他の生徒が来ることはなさそうだが…もしも…と、いう場合もあり得る…。
あらぬ誤解を招いて、お互いの体裁が悪くなってはたまらない…と、思った俺は高野に頭を上げるように声をかける。
その一方で…
『どうしたらいいんだ…』と、戸惑いながらも必死に思考を巡らす。
そこまでして、高野はこんな俺と付き合いたいのか…?
しかも、交換条件つきの交際って…。
それは純粋に付き合っていることには、ならないような…気がする…。
いや、待て…この交換条件つきの交際をすれば…今後一切、高野につきまとわられることはない…。
一ヶ月…一ヶ月我慢すればいいだけのこと。
一ヶ月なんて、あっという間…だ。
それで平穏無事な学生生活を送れるのなら…俺にとってもいい条件ではないだろうか…。
俺は自分の都合の良い解釈をして、結論づける。「ー分かった」
「ーっ…」
「それで高野の気が済むのなら…付き合うよ」
「…ほ、んと…?」
コクッ…。
俺は静かに頷いた。
「…やっ…やったー‼」
高野は両手をこれでもかっ…と、いうくらい空に向かってのばし、全身で喜びを表現した。
…そんなにも嬉しいものなのか…?
お互いに想い合っていて、その想いが通じ合ったからこそ…付き合うと、いうことに喜びを感じるわけで…俺達のように、一方だけが想いを寄せ、しかも交換条件つきで付き合うなんて…あまりにも動機が不純すぎるのに…
「ありがとう…駿くんっ‼」
この喜びよう…。
頬を赤く染め、嬉しそうに満面の笑みを浮かべる高野の心情が理解出来ず…俺は冷ややかな瞳で見ていたー…。