リーン...ゴーン...リーン...ゴーン...
1回...2回...と中央都市にある時計台から2時を告げる鐘の音が鳴る。
聴き慣れた音だが嫌な不安感が残る音色を聞き流しながら薔薇の装飾が華美に施されたティーカップを持ち上げ、1/3ほど残った、漆黒によく似た色のコーヒーを飲み干す。
この中央都市「アークトゥルス」は夜も昼も光が瞬き、いたるところに華美な装飾が施されている、美しい都市。中央にはアークトゥルスの象徴ともいえる大時計台「シリウス時計台」がそびえており、およそ100年以上前に建てられたものだが今でも鐘の音を鳴らし、人々に時の流れを告げている。
そんなこの都市だが建物や人の名前にも星の名前が使われている。それは何故か。答えは至って簡単でこの都市は星に支えられているから、感謝しているから。詳しく言うとこの年のエネルギー源は「星」そのもの。星の光、星の熱、あるいは星自体。名前の付いている星は熱やその星自体を取ることが出来ないが小さな星などは簡単に取れる。その小さな星は名前の付いている星からの恵み、自分を含めて人々はそう思っている。今、天井にあるシーリングライトから発せられている光も星の光、ということだ。
星と人々は切っても切れぬ縁ということになっている。
…少なくともこの都市ではだが。
星の恩恵を受けているのは「上位層」と呼ばれる一部の上流階級のみ、それに満たない「中位層」や「下位層」は星から受ける恩恵は少ない。特に「下位層」はアークトゥルスにも入れず、寂れた田舎で一生を過ごすことがほとんどである。
そんな中位層と下位層だが上位層になれるチャンスがないと言うわけではない。社会に莫大な利益をもたらす発明、発見をしたりすれば上位層になれるチャンスを手に入れられる。そこからさらに厳しい審査があるらしいが詳細は自分にもわからない。
自分も上位層の一人としてそれなりに裕福な生活を過ごしていることを感じている。しかし時々今のように社会の仕組みを思い返し、これが正しいのかわからなくなることがある。
もしかしてこの社会は間違っているのでは...と考えかけたとき深みのある木製のドアがノックされ、流れるような綺麗な声がドア越しに綺羅びやかな部屋に響く。
「プロキオン様、お時間よろしいでしょうか」
「大丈夫だ。今ドアを開けるから少し待ってくれ」
ドア越しに聞こえた質問にそう返すとアンティークチェアーから重い腰をゆっくりと上げ、玄関へと歩を進め、ドアに手をかけゆっくりとドアを開ける。
そのドアはきぃぃぃ...と微かに鳴りながら、開いていく。
そのドアの奥には長い黒髪を伸ばし、メイドの衣装を身にまとった女性がひっそりと佇んでいた。
彼女は私の専属のメイドで基本なんでも言うことを聞いてくれる。
…もちろん彼女は下位層だ。だが気にすることでもない。
私はそういう層の差別が1番嫌…
「プロキオン様ご要件、お伝えしてもよろしいでしょうか?」
と、半ば割り込む形で彼女の言葉が届く。
思考を途中で止められたことにむすっとしながらも彼女への問いに頷く。
彼女はそれを肯定と捉えたのかポケットから1つの紙を取り出し、読み上げていく。
『光栄なる紳士、プロキオン殿へ
まだまだ寒い日が続く中このような手紙を読んでくれて感謝するよ。
話が長くなるのは嫌だから早速本題に行かせていただくよ。
この度我が屋敷にてパーティーを開催しようと思っていまして、プロキオン殿いらっしゃったら楽しくなりそうだなと思いまして、勝手ながら招待させていただいた。
来るも来ないも自由ですよ。
メンデルスゾーン伯爵より』
「…は?」
私はそれを聞いた瞬間に思考が停止してしまった。理解が出来なかった。
なぜなら…メンデルスゾーン伯爵は1度大喧嘩をして、隣国へ喧嘩別れしてしまったからだ。
復縁目的ならわからなく無いがなぜ今頃…考えれば考えるほど分からないことが多く出てしまう。
とりあえず彼女を部屋から出すためにこう言葉をかける
「手紙運んでくれてありがとう。もう下がっていいよ」
そう言葉をかけると彼女は律儀にお辞儀をした後に私の部屋から出ていった。
「はぁ…」
対処すべき問題が山積みの状況でこの手紙…頭がパンクしてしまいそうだ。
目の前に置かれた問題に頭を悩ませてるうちに意識は夢の中に落ちていくのだった…