今日、恋人が死んだ。

 死んでいいなんて言ってない。どうして勝手に死んでいくのか、分からない。

 どうして置いていく? どうして捨てていく?

 疑問が尽きなくて、吐きそうになる。

 君の死因は何だったか。……あぁ確か、脳に腫瘍があったんだったか。

 けれど、自分にとっては既にそんな事実がどうでもよくなっていて、吐き気が収まる事はなかった。

 病室のベッドに横たわった恋人は、非常に綺麗な顔をしている。

 恨めしいほどに、羨ましいほどに、君は美しい顔を持っていた。

 自分とは到底比べ物にならないほどの、端正な顔。

 周りからも綺麗だのなんだの言われていた顔。

 なのに何故、こんなにも綺麗に朽ちたのか分からない。

 ――分かりたくもない。

 君はたくさんの思い出を残したのに、結局自分は何も返す事ができなかった。

 15歳ならではの若さが君には面影の欠片も残っていなくて、心臓が打ち震える。

 修学旅行で木刀を買って振り回していた君は、体育祭で校長を借りてきた君は、文化祭での悪ふざけでバニーの格好をさせられていた君は、もうどこにもいない。

 自分の記憶の中にしか、存在してくれない。

 見てくれだけの君は、もうこの世から徐々に消えていく感じがした。

 ……思えば君は、最後まで笑っていたな。

 自分が死ぬ事も厭わずに、悔しいくらいの笑顔を作っていた。

 もう残された時間はなかったというのに、最期まで……笑顔でいた。

 それが憎らしくて、やはり悔しくて、馬鹿らしいと言える。

 最期くらい泣き喚いて、“生”に必死に縋って、死にたくないと言って欲しかった。

 『死ぬ時まで、笑顔でいたい。』

 君にそう言われた時、自分は肯定した。それがとても悔しい。

 悔しくて悔しくて、後追いしたくなる。

 どうして最期まで笑ったんだろう、どうして生きる事をあっさり諦められたんだろう。

 人間、どうやら本当に悲しかったら涙も出ないらしい。

 だが今やっと気持ちの整理がついた自分の頬には、いやに冷たい雫があった。

 君と自分との間には、確かな愛があった。ぶれる事のない、芯のある愛。

 それなら尚更、自分がやるべき事は決まっていた。

 自分が言わなければいけなかった言葉は、これだったはずなのに。

 『死んでほしくない、死なないで。』

 ……――どうして、何も言えずに看取ってしまったんだろう。