朝、目が覚めると今日も僕は花を飾る。
 僕ひとりしかいないこの場所で誰を招くわけでもないし住まいを飾り立てる必要もないけど、これは体に染みついた習慣のようなものだ。花がないとなんだか落ち着かない。
 
 時折、柔らかな花の香りがふと鼻をくすぐった瞬間に、寂しさのような鈍い痛みが僕の胸をよぎる事がある。
 だけど、過去の記憶をほとんど失った僕にはその理由はわからない。

 この気持ちはなんだろう。 
 なんだっけ。優しくてあたたかな、とても大切なことだったような。

 ――庭先に、薄紅色のエリカの花が咲いている。