野乃花の狂気じみた謎の嫌がらせに恐怖を感じ、背筋が震えた。

「オレは本気で武藤さんが好きで……!」

「余計にムカつくわ! あんたの幸せなんて認めるものか!!」

それは息をのむ光景だった。

野乃花の瞳から一粒、大きい雫が落ちた。


「あんたが満足すると……泣くんだよ?」


あれだけざわざわしていた空間がシン……と静寂に包まれる。

異様な空気に包まれ、皆がこの二人の関係性を勘ぐるようになった。

その中で私だけ、モヤモヤした感情を抱えて野乃花を直視できない。


「たくさん泣いて泣いて…… 気づいたらアタシ、男の子が怖くなってた」


私には見えない姿の彼を見ている。


「あんたはやめてって言ってもやめてくれなかった。アタシはずっと辛かった」

それは私に一心に向けてくれる”愛情”とはまた違っていて。

かわいいと口にし、真綿で包むように微笑んでくれる彼とはかけ離れた人物像。


「また泣かせて楽しんでるの? また誰かを傷つけようとしてるの?」

「違う、そんなんじゃない」

「どうせあんたは傷つける! あんたはそういう奴だ!」


傷ついた表情は前も見た。

彼から距離を取ることを選んだ時に見せた悲しい表情。

怯えた私に彼は自分の手を見て、青ざめていたことを思い出す。


「……ごめん」

「アタシは認めない。あんな怖い目に合わせてたまるか」

「えっ!?」

世界がぐわんと歪みだす。

流れるように世界が後ろに消えていき、私のもたついた足がわけもわからず動いていた。
  
(なに!? えっ……私!?)

野乃花に引っ張られ、人の輪を突き抜けて外へと出る。

ざわめきから離れ、静かな中庭のベンチまで走って止まった。

全速力で走ったため、運動不足の身には膝が痛い。

けろっとした様子の野乃花は先ほどとは打って変わり、無邪気な笑顔を浮かべていた。