ここはカンロギの町にある商店街。その建物の、ひと気のない路地裏だ。
 あれからティオルはここまでくる。
 そのあとをタールベがついてきた。

 「さて、ここならいいでしょうか」

 ティオルはタールベに背を向けたままそう言う。
 それと同時に、タールベはティオル目掛け二本のナイフを投げつける。

 「あっ、綺麗な花が……」

 そう言いティオルは花の匂いを嗅ぐため中腰になった。……勿論これはナイフを避けるためである。
 タールべが投げた二本のナイフは、ティオルの上を通り過ぎて木の塀に突き刺さった。

 「……これは、どういう事でしょうか? 塀にナイフが二本も刺さりましたね」

 そうティオルは言うとタールベの方を向き、ニコッと笑みを浮かべる。

 「クッ……運がいい男だ。だが、ここなら誰も居ない」
 「なるほど……貴方は私を殺そうとした訳ですか。そうなると何か聞かれたくないことがあると」
 「お前……何者だ? 今のは、わざとだな」

 そう言いタールベは、ティオルを鋭い眼光で睨みつけた。

 「さあ、どうでしょう。そうですねぇ……それを云うならば貴方こそ何者でしょうか?」

 ティオルはそう言うと凍てつくような眼光でタールベを睨んだ。
 それをみたタールベは寒気がし後ろに一歩さがる。

 「……言うつもりはないようだな」
 「それは、コッチの台詞ですよ」
 「お前……この国の役人か?」

 そう問われティオルは首を傾げた。

 「さあ……どうでしょう? そもそも、なぜ貴方にそれを話す必要があるのですか」
 「なるほどな。それなら、俺も話す必要はない」
 「そうですか。もっと穏便に話を進められればと思ったが無理なようですね」

 それを聞きタールベは、ニヤリと笑みを浮かべる。

 「フンッ、そもそも……そんなこと無理に決まっているだろっ!」

 そう言うとタールベは、短剣を鞘から抜いた。

 「先に抜きましたね。じゃあ、これは正当防衛になります」

 ティオルはそう言ったと同時に細身の剣を鞘からぬく。すると素早く、タールベとの間合いを詰め斬りつけた。
 それをみたタールベは避ける。
 しかし、ティオルの剣の刃はタールベの左腕をかすめていた。

 「ツウ……なんて速さだ。やはりお前は、只者じゃないな」

 そう言いタールベは斬られた腕を押さえながら、ティオルから少しずつ距離を離れていっている。

 「まさか、逃げるなんて考えていませんよね。そもそも先に刃を向けたのは貴方ですよ」

 ティオルはそう言いタールベとの間合いを詰めていった。
 それに対しタールベは冷や汗をかきながら距離を取っている。

 (本当に……コイツは何者なんだ? 間違いなく普通の冒険者じゃない。それに、戦闘経験……場慣れもしている。真面にやり合えば負けるだろうな。
 だが……逃げられるのか。まず難しいだろう……さて、どうする)

 そう考えタールベは後ろにさがった。

 (コイツは間違いなく……ハルリオン様を狙った刺客の一人でしょう。
 なんとか殺さず、この者を捕らえられればいいのですが。その前に自決でもされたら、また振り出しに戻ってしまいます……気をつけませんと)

 そう思考を巡らせながらティオルは、タールベとの間合いを詰める。
 そしてお互いその後も、しばらくこの状態が続いていたのだった。