【三島side】
一人で教室を去っていく藤崎を見送りながら、俺はため息をつく。
なんだよ。話してる途中って、そんなの気を使わなくてもいいのに。
そんなのさっさと切り上げていいから、お前と一緒に行きたいっての。
そうハッキリ言えたら、どんなによかったか。
────ポン
そっと、肩を叩かれる。
叩いたのは、そばで一部始終を見ていた、中学の頃からの友人だ。
「…………ドンマイ」
「何がだ!」
なんでいきなり慰められなきゃならねーんだよ!
けどそこで、同じく一部始終を見ていた北野が、さらに続ける。
「まだまだチャンスはこれからだって」
「だから何がだ!」
声を荒らげるけど、二人はちっとも堪える様子がない。
北野に至っては、ニヤニヤと笑いながら、生暖かい視線を向けてくる。
「藍がベースを始めたと聞けばギターを始める。一緒に部室に行けなかっただけで落ち込む。あんた、わかり易すぎでしょ。小学生の頃からの片思い、長いよね」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
こ、こいつ。いきなり何言い出すんだよ!
いきなり叫んだせいで、教室にいた他の奴らがどうしたんだって感じでこっちを見てくるけど、それを気にする余裕なんてない。
「お前、なにテキトーなこと言ってんだよ!」
「いや、だからわかり易すぎだって。あんたが藍を好きってこと、同中ならけっこうな子が知ってるよ。小学生の頃は、好きな子いじめやってたことも含めてね」
「くっ……」
やめろ。黒歴史を掘り起こすな。
小学生の頃、藤崎にやったイジワルの数々を思い出すと、死にたくなる。
なんでもいいから、とにかく藤崎に構ってほしかったあの頃の俺に言いたい。このバカヤロウ!
もちろん今はそんなことやっちゃいねえし、藤崎とは、普通に仲のいい同級生って感じだ。
……と思うんだが、なぜか周りの奴らには、俺が藤崎を好きだってことはバレバレなんだよな。
なんでわかるんだよ。
「まあ、藍本人は気づいてないけどね。あの子、自分の恋愛に関してはとことん鈍いのよね」
そうなんだよな。
一番肝心な藤崎だけは、俺の気持ちに全く気づいてない。
まあ、ある意味それでよかったのかもしれない。
「気づかなくていいよ。知ってもどうせ困らせるだけだ」
「そんなのわからないじゃない」
「わかるよ。だってあいつ、未だに小学生の頃の初恋を引きずってるんだぞ」
いつも藤崎のすぐ側にいた、あいつのことを思い出す。
有馬優斗。もう亡くなって何年も経つってのに、多分藤崎は、まだあいつのことを好きでいる。
そんなの、見てりゃだいたいわかる。
「えっ、そうなの? 初恋って、相手は誰?」
中学に入ってから知り合った北野は、俺や藤崎が小学生だった頃のことはよく知らない。
興味津々に聞いてくるけど、俺はこれ以上話す気はなかった。
「面倒臭いから言わねえよ」
「えーっ。ちょっとくらいいいじゃない」
「嫌だ。だいたい、藤崎に無断で話していいもんじゃないだろ」
「そりゃそうだけど……」
北野は不満そうにしているけど、さすがに本人のいないところで、あれこれ昔のことを聞いてこようとはしなかった。
ただ、かわりにこんなことを言う。
「けどさ、軽音部って、今はあんたたち二人しかいないかもしれないんだよね。それって、もっと仲良くなれるチャンスなんじゃないの?」
「なっ──!」
それは、俺だって考えなかったわけじゃない。
って言うか、それが目的で軽音部に入るって言っても過言じゃなかった。
ただめちゃめちゃ不純な動機だから、大きな声じゃ言えないけどな。
それでも、これから始まる軽音部の活動を想像すると、少しは期待もするってもんだ。
「同じ部活……二人きり……」
いい加減、俺もさっさと部室に行こう。
そこで藤崎と今よりもっと仲良くなれたら。そう思いながら、俺はギュッと手を握りしめた。
一人で教室を去っていく藤崎を見送りながら、俺はため息をつく。
なんだよ。話してる途中って、そんなの気を使わなくてもいいのに。
そんなのさっさと切り上げていいから、お前と一緒に行きたいっての。
そうハッキリ言えたら、どんなによかったか。
────ポン
そっと、肩を叩かれる。
叩いたのは、そばで一部始終を見ていた、中学の頃からの友人だ。
「…………ドンマイ」
「何がだ!」
なんでいきなり慰められなきゃならねーんだよ!
けどそこで、同じく一部始終を見ていた北野が、さらに続ける。
「まだまだチャンスはこれからだって」
「だから何がだ!」
声を荒らげるけど、二人はちっとも堪える様子がない。
北野に至っては、ニヤニヤと笑いながら、生暖かい視線を向けてくる。
「藍がベースを始めたと聞けばギターを始める。一緒に部室に行けなかっただけで落ち込む。あんた、わかり易すぎでしょ。小学生の頃からの片思い、長いよね」
「うわぁぁぁぁぁっ!」
こ、こいつ。いきなり何言い出すんだよ!
いきなり叫んだせいで、教室にいた他の奴らがどうしたんだって感じでこっちを見てくるけど、それを気にする余裕なんてない。
「お前、なにテキトーなこと言ってんだよ!」
「いや、だからわかり易すぎだって。あんたが藍を好きってこと、同中ならけっこうな子が知ってるよ。小学生の頃は、好きな子いじめやってたことも含めてね」
「くっ……」
やめろ。黒歴史を掘り起こすな。
小学生の頃、藤崎にやったイジワルの数々を思い出すと、死にたくなる。
なんでもいいから、とにかく藤崎に構ってほしかったあの頃の俺に言いたい。このバカヤロウ!
もちろん今はそんなことやっちゃいねえし、藤崎とは、普通に仲のいい同級生って感じだ。
……と思うんだが、なぜか周りの奴らには、俺が藤崎を好きだってことはバレバレなんだよな。
なんでわかるんだよ。
「まあ、藍本人は気づいてないけどね。あの子、自分の恋愛に関してはとことん鈍いのよね」
そうなんだよな。
一番肝心な藤崎だけは、俺の気持ちに全く気づいてない。
まあ、ある意味それでよかったのかもしれない。
「気づかなくていいよ。知ってもどうせ困らせるだけだ」
「そんなのわからないじゃない」
「わかるよ。だってあいつ、未だに小学生の頃の初恋を引きずってるんだぞ」
いつも藤崎のすぐ側にいた、あいつのことを思い出す。
有馬優斗。もう亡くなって何年も経つってのに、多分藤崎は、まだあいつのことを好きでいる。
そんなの、見てりゃだいたいわかる。
「えっ、そうなの? 初恋って、相手は誰?」
中学に入ってから知り合った北野は、俺や藤崎が小学生だった頃のことはよく知らない。
興味津々に聞いてくるけど、俺はこれ以上話す気はなかった。
「面倒臭いから言わねえよ」
「えーっ。ちょっとくらいいいじゃない」
「嫌だ。だいたい、藤崎に無断で話していいもんじゃないだろ」
「そりゃそうだけど……」
北野は不満そうにしているけど、さすがに本人のいないところで、あれこれ昔のことを聞いてこようとはしなかった。
ただ、かわりにこんなことを言う。
「けどさ、軽音部って、今はあんたたち二人しかいないかもしれないんだよね。それって、もっと仲良くなれるチャンスなんじゃないの?」
「なっ──!」
それは、俺だって考えなかったわけじゃない。
って言うか、それが目的で軽音部に入るって言っても過言じゃなかった。
ただめちゃめちゃ不純な動機だから、大きな声じゃ言えないけどな。
それでも、これから始まる軽音部の活動を想像すると、少しは期待もするってもんだ。
「同じ部活……二人きり……」
いい加減、俺もさっさと部室に行こう。
そこで藤崎と今よりもっと仲良くなれたら。そう思いながら、俺はギュッと手を握りしめた。