掃除をすませた後、私たち三人は、そろって墓地を後にする。
 そこでふと、三島が小さい声で、私だけに向かって囁いた藍に。

「なあ藤崎」
「なに?」
「前から思ってたけど、お前、こうまで先輩のために色々やってるのに、肝心の告白はしないよな」
「────っ!」

 えっ? えっ? えぇぇぇぇっ!

 み、三島。なに言ってるの!?

 告白って、好きな人に好きって言う、あの告白だよね。

「ちょっ──ちょっとこっち来て!」
「お、おい!」

 慌てて三島の手を引っ張って、ユウくんから離れる。
 こんなの、ユウくんには絶対聞かせられない!

「三島、知ってたの? その……私が、ユウくんを好きだってこと。いったいいつから?」

 三島はもちろん、誰にも話したことなんてなかったのに。

「先輩が生きてた時からだよ! って言うか、気づかれてないとでも思ってたのかよ!」

 そ、そうなの?
 私は、隠してたつもりなんだけど。
 もしかして、三島って意外と鋭いのかも?

「お願い。ユウくんには言わないで!」

 この気持ち、いつかは知ってほしいって思ってたけど、少なくとも今じゃないから!
 こんな形で知られちゃったら、どうすればいいのかわかんないよ!

「言わねえよ。誰がそんなことするかよ」

 よ、よかった。

 ホッとしていると、三島はなんだか思うところがあるみたいに、静かに呟く。

「まあ、いくら想っていても、そう簡単には言えねえよな」

 なんだかその言葉には、すごく実感がこもっているように聞こえた。

「もしかして、三島も誰かそんな人いるの?」
「さあな」

 曖昧な答え。
 だけどハッキリいないって言わないってことは、いるような気がする。

 私の知ってる人なのかな?
 三島とは長い付き合いだけど、今までそんな話は一度も聞いたことないから、なんだか意外。

 もっと詳しく聞いてみたいけど、あんまりしつこくするのも悪いかも。

 なんて考えてたら、急に別の声が割って入ってきた。

「二人とも、何を話してるんだ?」
「ゆ、ユウくん!?」

 私たちの話が気になったのか、いつの間にかユウくんが近くにやって来ていた。

 全然気づかなかったから、私も三島も大慌てだ。

 わ、私がユウくんを好きだってこと、聞こえてないよね!?

「な、なんでもないから!」
「有馬先輩には、関係ない話だよ!」

 それぞれ大声で叫ぶものだから、これにはユウくんも面を食らってた。

「そ、そうか? ごめん。邪魔したな」

 別に邪魔ってわけじゃないんだけどね。
 だけど、話の内容は絶対に聞かせられないの。
 少なくとも、今はまだ。
 
 それからまた、三人並んで歩き始める。
 その途中、私はそっと、ユウくんを見る。

 小さい頃からずっと好きだった人。
 生きていた頃はその想いは伝えられなかった。
 消えてしまうと思った時も、今はまだ妹でいるべきだと思って、恋としての好きを伝えることはできなかった。

 だけど、まだこうして近くにいてくれるのなら、やっぱりどこかで期待しちゃう。
 いつか、この好きって気持ちを伝えられる時が来るんじゃないかって。

 そう思いながらずっと見つめていたもんだから、ユウくんがその視線に気づく。

「どうかしたのか?」
「えっ? えっと……改めて、不思議だなって思って。ユウくんとまた会えたのも、こうして一緒に歩いているのも」
「そうだな。俺もだ」

 いったいいつまでこうしていられるのかはわからない。
 だけどできることなら、もうしばらくはこのままでいてほしい。
 妹でなく、一人の女の子としての好きを、ちゃんと伝えられるその日まで。

(いつかきっと言うから。だから、それまで消えないでね、ユウくん)

 今はまだ口に出せない代わりに、心の中でそう呟いた。




 ‪✿‪おしまい✿