その日私は、学校から帰った後、近くの公園で遊んでいた。
 こういう時は、どこからか三島がやって来てイジワルすることも多いけど、この前ユウくんに叱られて以来、大人しくなっている。
 おかげで、最近は平和。

 だけどそこに、急にお母さんやって来た。

(今の時間はお店で働いているはずなのに、どうしたんだろう?)

 駆け寄ってきたお母さんの顔は、ビックリするくらい真っ青。それを見て、なんだか嫌な予感がした。
 そして、震える声でこう言われた。

「藍、よく聞いて。ユウくん、亡くなったんだって」
「えっ──?」

 亡くなったって、どういうこと?

 最初、その言葉の意味が分からなかった。
 なのに聞いたとたん、心臓がドクドクと嫌な音を立てはじめる。

「学校の階段から落ちて、頭を強く打ったって……」

 お母さんが、何があったのか話してくれる。ユウくんがどうして亡くなったのか、教えてくれる。

 だけど私には聞こえなかった。聞きたくなかった。

「やっ──!」

 耳を押さえてうずくまる。

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。
 ユウくんが亡くなったなんて、そんなことあるわけない!










 ユウくん家で、お葬式がある。そうお母さんは言ってた。
 私も、一緒に行こうって言われた。

 だけど私は行かなかった。
 お母さんの用意した服に着替えはしたけど、それから家を飛び出した。

 さっきまでいた公園の隅で、誰にも見られないように、声を殺して泣いていた。

(行きたくない。ユウくんのお葬式なんて、行きたくない)

 最後にお別れをしなきゃ。お母さんだけでなく、お父さんもそう言ってた。

 けど私は、それでも行きたくなかった。

 だって行ったら、本当にユウくんが亡くなったんだって、認めるしかなくなるから。

(そんなの、嫌だよ……)

 泣いていると、ユウくんとの思い出がどんどん蘇ってくる。

 いつもそばにいてくれた。楽しい時は一緒に笑って、困っている時は助けてくれた。
 あの子はピュアピュアの歌を弾いてくれるって約束してくれた。
 だけどそれも、聞くことはできなくなった。

 涙が、ますます溢れてくる。

 その時、ふと背中に人の気配を感じた。

 お父さんかお母さんが探しに来たの?
 だけど振り返った時、そこにいたのはどっちでも無かった。

「……三島?」

 そこにいたのは三島だった。
 走ってここまで来たみたいで、息を切らせながら肩を激しく上下に揺らしていた。

「お前、こんなところで何やってるんだよ」

 大きく息を吸い込んで、三島が言う。
 そう言えば、優斗の葬儀でお経をあげるのは、お坊さんをやってる三島のお父さんだって聞いた気がする。

「何でアイツのところに行ってやらねえんだよ」

 もう一度、三島が言う。

 だけど私は、何も答えず、またうずくまる。
 何も話したくなかった。

 三島もそれ以上は何も言わなくて、ただ黙って私を見てた。

 どれくらいの間そうしていただろう。
 だけど、ふとあることを思い出す。
 それから、ようやくうつむいていた顔を上げて、三島を見る。
 必死で涙を堪えながら、言う。

「ねえ三島、三島って幽霊が見えるんでしょ。どんな幽霊とだって、会うことができるんでしょ」
「えっ?」

 驚いたように声を上げる三島に向かって、さらに言う。

「お願い。ユウくんに会わせて!」