(わ、私、何言ってるんだろう)
思わず言ってしまった言葉。
けどそれからすぐに、自分が大変なことをしたって気づく。
こんなの、どう考えても告白になっちゃう!
そりゃ、ユウくんのことはずっと好きだったし、いつかはこの気持ちを伝えたいなんて思ってた。
けど、今それを言う気なんてなかったのに!
どうしよう。どうしよう!
「ち……違うの。これは、その……」
慌てて誤魔化そうとするけど、こうまでハッキリ言っちゃったんだから、どうしていいのかわからない。
いきなりこんなこと言われて、ユウはどう思ってる?
引いてない? 迷惑じゃない?
気になるけど、知るのが怖い。
もしも面と向かって断られたりしたら、二度と立ち直れないような気がした。
「……藍」
「は、はい!」
名前を呼ばれただけで、びくりと肩が震える。
その続きを聞くのが怖くて、耳を塞ぎたくなる。
だけどそうする間もなく、ユウくんはさらに続けた。
「ありがとな」
「…………えっ?」
その瞬間、時が止まったような気がした。俯いていた顔を上げると、ユウくんはにこやかに微笑んでいた。
「藍にそう言ってもらえて、すごく嬉しいよ」
優しい声でそう告げるユウくん。だけど、それを見て思う。
(……違う)
きっと、嬉しいって言葉に嘘はない。ユウくんは、喜んでくれている。
多分、それは間違いない。
けど、それだけ。
嬉しいだけで、私が感じているような緊張もドキドキも、ユウくんには無い。
それに気づいた時、急に心の奥が冷たくなっていくのを感じた。
「俺も、藍のこと好きだよ」
ユウはそう言いながら、私の頭を撫でる仕草をする。
この好きって言葉にも、一切の嘘はないんだろうな。
けど、わかってしまう。
ユウくんの言ってる好きは、私が言った恋としての好きとは、同じじゃないってことを。
「それって、私が妹だから?」
これを聞くのは、自分から傷つきに行くようなもの。
それでも尋ねると、ユウくんは一切の悪意無く、笑顔でこう告げる。
「もちろんだよ。藍のこと、本当の妹みたいに思ってる」
違うって言いたかった。
私の言う好きは、そういう意味じゃないって伝えたかった。
妹でなく、一人の女の子として見てもらいたかった。
だけど、それはとても怖いことでもあった。
この気持ちを伝えてしまったら、今まで通りの関係じゃいられなくなる。
口にすることはできなかった。
恋愛として誰かを好きになるってのが、よくわからない。
なんて聞いた後なら、なおさらだ。
だから、この話はこれで終わりにする。
このまま話を続けていたら、今度こそ気持ちが抑えられなくなりそうだったから。
動揺しているのを悟られないように笑顔を作って、今までとは全く関係の無い話題を出す。
わざと明るい声を出して、強引に話の流れを変える。
「それにしても今日は疲れた。人前で演奏するってあんなに体力いるんだね」
「あ……ああ」
もちろん、こんなことしてユウくんが不思議に思わないはずがない。
怪訝な顔をするけど、何か言れるより先に、さらに言葉を続けた。
「疲れたから、今日はもう寝るね」
それだけ言うと、返事も聞かずに、テキパキと布団の用意をすませる。
「……なあ、藍?」
「お休み、ユウくん」
ユウくんの言葉を遮るようにお休みの挨拶をし、いそいそと電気を消して、ベッドに潜りこむ。
こうなると、ユウくんもこれ以上話を続けるわけにはいかない。
仕方なく、押入れの中へと引っ込んでいく。
「お休み、藍」
最後に掛けられた言葉は、どこか心配そうだった。
急に、変な態度になってごめん。
だけど、こうするしかなかった。
平気な顔をしておくのも、もう限界だったから。
ユウくんが押入れの中に入ったのを確認すると、改めて布団をかぶりなおす。
そのとたん、顔がクシャリと歪んだ。
『もし付き合ったとしても、いつまで続くかわからない。いつかは別れるかもしれない。そんな風に、つい考えるんだ』
そう言ったユウくんの声が、耳に残って離れない。
軽い感じで言ったその言葉に、本当はどれほどの思いが込められているか、私は知っている。
そう思ってしまうだけの理由を、ユウくんは持っていた。
(きっと、あんなことがあったからだよね)
ユウくんの抱えていたものが、頭を過る。
あんなことがあったら、ユウくんがそんな風に考えるのも、納得がいってしまった。
だけど私は、それを否定したかった。誰かを好きになって、それがずっと続くことだってあるんだよって、伝えたかった。
だから、つい告白みたいなことをしてしまった。
結局その想いは伝わらなかったけど、ユウくんが勘違いしてくれてよかったのかもしれない。
(妹みたいなもの。それなら、ずっと好きでいてくれるよね)
もしユウくんが、本当に誰とも恋愛できないって言うのなら、私のこの気持ちは、決して実らない。
ユウくんだって、きっと困る。
けど勘違いしてくれたおかげで、これからも仲の良い兄と妹でいられる。
妹なら、変わることなくずっとそばにいられる。
そう、自分自身に言い聞かせる。
これまでは、いつか変えたいって思っていた、妹みたいなポジション。
だけど今は、仲の良い関係を守ってくれるものへと変わっていた。
「ユウくんの妹で良かった。勘違いしてくれて良かった」
布団の中。決してユウくんには聞こえないくらいの小さな声で、何度もそう繰り返し呟いた。
思わず言ってしまった言葉。
けどそれからすぐに、自分が大変なことをしたって気づく。
こんなの、どう考えても告白になっちゃう!
そりゃ、ユウくんのことはずっと好きだったし、いつかはこの気持ちを伝えたいなんて思ってた。
けど、今それを言う気なんてなかったのに!
どうしよう。どうしよう!
「ち……違うの。これは、その……」
慌てて誤魔化そうとするけど、こうまでハッキリ言っちゃったんだから、どうしていいのかわからない。
いきなりこんなこと言われて、ユウはどう思ってる?
引いてない? 迷惑じゃない?
気になるけど、知るのが怖い。
もしも面と向かって断られたりしたら、二度と立ち直れないような気がした。
「……藍」
「は、はい!」
名前を呼ばれただけで、びくりと肩が震える。
その続きを聞くのが怖くて、耳を塞ぎたくなる。
だけどそうする間もなく、ユウくんはさらに続けた。
「ありがとな」
「…………えっ?」
その瞬間、時が止まったような気がした。俯いていた顔を上げると、ユウくんはにこやかに微笑んでいた。
「藍にそう言ってもらえて、すごく嬉しいよ」
優しい声でそう告げるユウくん。だけど、それを見て思う。
(……違う)
きっと、嬉しいって言葉に嘘はない。ユウくんは、喜んでくれている。
多分、それは間違いない。
けど、それだけ。
嬉しいだけで、私が感じているような緊張もドキドキも、ユウくんには無い。
それに気づいた時、急に心の奥が冷たくなっていくのを感じた。
「俺も、藍のこと好きだよ」
ユウはそう言いながら、私の頭を撫でる仕草をする。
この好きって言葉にも、一切の嘘はないんだろうな。
けど、わかってしまう。
ユウくんの言ってる好きは、私が言った恋としての好きとは、同じじゃないってことを。
「それって、私が妹だから?」
これを聞くのは、自分から傷つきに行くようなもの。
それでも尋ねると、ユウくんは一切の悪意無く、笑顔でこう告げる。
「もちろんだよ。藍のこと、本当の妹みたいに思ってる」
違うって言いたかった。
私の言う好きは、そういう意味じゃないって伝えたかった。
妹でなく、一人の女の子として見てもらいたかった。
だけど、それはとても怖いことでもあった。
この気持ちを伝えてしまったら、今まで通りの関係じゃいられなくなる。
口にすることはできなかった。
恋愛として誰かを好きになるってのが、よくわからない。
なんて聞いた後なら、なおさらだ。
だから、この話はこれで終わりにする。
このまま話を続けていたら、今度こそ気持ちが抑えられなくなりそうだったから。
動揺しているのを悟られないように笑顔を作って、今までとは全く関係の無い話題を出す。
わざと明るい声を出して、強引に話の流れを変える。
「それにしても今日は疲れた。人前で演奏するってあんなに体力いるんだね」
「あ……ああ」
もちろん、こんなことしてユウくんが不思議に思わないはずがない。
怪訝な顔をするけど、何か言れるより先に、さらに言葉を続けた。
「疲れたから、今日はもう寝るね」
それだけ言うと、返事も聞かずに、テキパキと布団の用意をすませる。
「……なあ、藍?」
「お休み、ユウくん」
ユウくんの言葉を遮るようにお休みの挨拶をし、いそいそと電気を消して、ベッドに潜りこむ。
こうなると、ユウくんもこれ以上話を続けるわけにはいかない。
仕方なく、押入れの中へと引っ込んでいく。
「お休み、藍」
最後に掛けられた言葉は、どこか心配そうだった。
急に、変な態度になってごめん。
だけど、こうするしかなかった。
平気な顔をしておくのも、もう限界だったから。
ユウくんが押入れの中に入ったのを確認すると、改めて布団をかぶりなおす。
そのとたん、顔がクシャリと歪んだ。
『もし付き合ったとしても、いつまで続くかわからない。いつかは別れるかもしれない。そんな風に、つい考えるんだ』
そう言ったユウくんの声が、耳に残って離れない。
軽い感じで言ったその言葉に、本当はどれほどの思いが込められているか、私は知っている。
そう思ってしまうだけの理由を、ユウくんは持っていた。
(きっと、あんなことがあったからだよね)
ユウくんの抱えていたものが、頭を過る。
あんなことがあったら、ユウくんがそんな風に考えるのも、納得がいってしまった。
だけど私は、それを否定したかった。誰かを好きになって、それがずっと続くことだってあるんだよって、伝えたかった。
だから、つい告白みたいなことをしてしまった。
結局その想いは伝わらなかったけど、ユウくんが勘違いしてくれてよかったのかもしれない。
(妹みたいなもの。それなら、ずっと好きでいてくれるよね)
もしユウくんが、本当に誰とも恋愛できないって言うのなら、私のこの気持ちは、決して実らない。
ユウくんだって、きっと困る。
けど勘違いしてくれたおかげで、これからも仲の良い兄と妹でいられる。
妹なら、変わることなくずっとそばにいられる。
そう、自分自身に言い聞かせる。
これまでは、いつか変えたいって思っていた、妹みたいなポジション。
だけど今は、仲の良い関係を守ってくれるものへと変わっていた。
「ユウくんの妹で良かった。勘違いしてくれて良かった」
布団の中。決してユウくんには聞こえないくらいの小さな声で、何度もそう繰り返し呟いた。