「……」

 布団から飛び出て、数時間が経った。
 あのまま航太と一緒に寝てしまうと、俺の理性が壊れてしまいそう。
 それぐらい、彼が魅力的に感じてしまった……。

 だからキッチンの換気扇を回して、タバコを吸っている。
 頭を冷やすために。
 もう何本目だ?
 全然、吸っている感覚がない。
 指も震えっぱなし。

「ったく、どっちが童貞なんだか……」


 しばらくキッチンで時間を潰していたが、眠気に耐えられず。
 床に座り込むと、そのまま寝落ちしてしまった。
 
 ~それから、数時間後~

 どこからか美味そうな香りが漂ってくる。
 瞼を開いて、辺りを確認すると。
 航太の姿が見えない。
 
 彼が寝ていた布団は、きれいに畳まれていた。
 そしてちゃぶ台の上に、なぜか皿が並べられている。
 なんだろうと起き上がると、航太が書いたと思われるメモに気がつく。

『おっさんへ。ひとりで布団使ってごめんね。朝ごはんを作ったから、食べていいよ』

 再度、ちゃぶ台の上を確認すると。
 目玉焼きに鮭。味噌汁と白ご飯が並べられていた。
 冷めないように、全てラップをかけて。

 航太のやつ、気を使いやがって。別に良いのに。
 そう思っても身体は素直だ。
 自然と口角が上がってしまう。
 久しぶりの和食だ。味わって食べよう。

  ※

 編集部の高砂さんから、出された要望。
 ロリものエロマンガの原作だが……。
 航太のおかげで、どうやら形になってきた。

 冴えない主人公の隣りに、引っ越してきた人妻とその娘。
 ツンデレだが結構、主人公が気になる女子中学生。
 最初こそケンカが絶えないが、育児に興味のない母親であることを良いことに。二人は密会を重ねる。

 ボロくて薄い壁のアパートでも、二人にとっては愛の巣だ。
 セーラー服を着た幼妻は、献身的に主人公を支える……。
 生活面でも、肉体的にも。

 こんなところか。
 原稿を書きあげると、編集部にメールで送信。
 あとは、担当の高砂さんから反応を待つだけ……と思っていたら、スマホから着信音が鳴り響く。
 さっき送ったばかりだというのに、もう高砂さんから電話がかかってきた。

『あ、あのSYO先生! 先ほど送られた原稿ですが、本当にご自身で書かれたんですか!?』

 えらく興奮しているな。なにかまずいことでも書いたか?
 
「そうですけど。高砂さん、俺なにかドジりましたかね、表現の問題とか……」
『いいえ! 最高です! 私の期待以上です!』
「え……?」
『ムチムチシリーズも妙にリアルで、最高でしたが。今回の作品、リアルすぎて怖いぐらいです!』

 まあ航太をモデルに書いたからな……。
 性別は違うけど、確かにリアルかも。
 お褒めの言葉を頂いて光栄だが。

「そうですか……。それでこの作品で、漫画家さんにお願いするんですか?」
『ええ、すぐに依頼しようと思っています! ていうか、SYO先生。ちゃんと使ってくれたんですね?』
「ん? なんのことですか?」
『私が送った資料ですよ。作中、主人公がセーラー服姿のヒロインを、後ろから襲っていたじゃないですか! 料理中なのを良いことに!』

 あ、この前の航太だ。
 セーラー服姿で家事をしてくれたもんな。
 無断で彼を描いて良かったのか。

「はは……。まあ今回は鬼畜ものというより、純愛ものにしているつもりなのですが」
『どこがですか? 幼い少女だからと洗脳している鬼畜野郎ですよ、この主人公って!』
「洗脳じゃないと思いますよ……」

 一応、否定しておかないとな。
 俺のことだから。

『ところで、SYO先生。一つだけ確認しても良いですか?』
「はい、なんですか?」
『このヒロインなんですけど……まさか、実際に女子中学生と密会なんて、してませんよね?』
「ブフーーッ!」

 思わず、大量の唾を吹き出してしまった。
 確かに彼女の言う通り、未成年との密会なんて犯罪だ。
 断じてそんなことは行っていない。

 俺が会っているのは、少年であって少女じゃない。
 隣りに住んでいる。ただの男の子。
 やましい気持ちなんて、俺には……。

『SYO先生。創作は自由ですが、絶対に未成年だけはやめてくださいね』
「は、はい……」

 大丈夫。航太は隣りに住む、親しい友達みたいなもんだ。