洗濯した航太の服をハンガーにかけて、カーテンレールで干す。
 外は嵐だから、家の中で乾かすしかない。
 エアコンの温風を使って……。
 一晩じゃ乾きそうにないな。

 風呂から出てきた航太に、俺の持っているスエットを手渡す。

「ほら、これ。着ておけよ」
「あ、うん」

 当然と言えば、当然のことなのだが。
 俺たちは男同士だから、恥ずかしがる素振りなど見せない。
 ずっとタオルで頭をごしごしと拭いている。

 どうしても、視線が彼の胸部に行きがちだ。
 ピンク色の(つぼみ)へ、目が行ってしまいそう。
 可愛い……と思う俺は、変態なのだろうか?

  ※

 『えぇ……現在、福岡市内には暴風、豪雨の警報が発表されております。外に出ることは極力、避けてください』

 二人して肩を並べ、テレビの画面を眺める。
 流れている映像は大きな川で、洪水を起こしていた。
 
「すごい雨だね、おっさん」
「ああ……」

 着替え終わった航太とテレビを見ているが、どうも頭に入って来ない。
 適当に相づちを打っているだけ。
 それもそのはず。

 彼の着ている、服装の刺激が強いからだ。
 俺が渡したのは上下のスエットなのだが、トップスしか着ていない。
 ボトムスはウエストが大きすぎて落ちてしまう、と返された。
 
 おまけに、彼の下着はずぶ濡れだから、現在はカーテンレールにかけてある。
 水色のカラーブリーフ。
 つまり今の彼は、ノーパン。
 一応、俺が持っているトランクスを渡してみたが、これも大きすぎて落ちてしまうそうだ。

 体育座りをしながら、航太がリモコンを手に取る。
 色々とチャンネルを変えるが、どこも同じような災害番組ばかり。
 
「はぁ~ つまんないなぁ」
「ところで航太。お前、綾さんに何も言わなくていいのか?」
「え、なんで?」
「だって……お隣りとは言え、一人息子のお前が、何時間も他人の家にいるなんてさ」
「なんだ、そんなことか。別に母ちゃんなら怒んないよ」

 どこまでも放任主義なんだな。
 なんだか、航太がかわいそうだ。

「ねぇ、おっさん」
「ん? どうした?」
「あのさ、今晩。泊めてくれない?」
「なっ!?」

 驚く俺を無視して、首をかしげる航太。
 
「いいでしょ? 外は嵐だし……」

 なんて、いっちょ前に上目遣いでおねだりしてきた。
 さっさと帰そうと思ったのに。

  ※

 航太は俺からスマホを借りると、母親の綾さんに電話をかけていた。
 どうやら二つ返事で、許可を得たようだ。
 しかし本当にあの母親は、我が子に無関心なんだな。
 今も隣りの部屋から、男との笑い声が聞こえてくるぐらい。

 とりあえず、布団はひとつしか無いから、航太へ譲ることにした。
 万が一……なんてことはないと思うが、間違いがあってはならない。

「航太、お前が布団を使え。俺は畳で寝られるから」

 そう言うと、彼は顔を真っ赤にして怒り始める。

「なんでだよ! 一緒に寝ろよ!」
「いや……男二人がくっついて寝るなんて、気持ち悪いだろ?」
「良いじゃん! オレとおっさんは、と、友達だろ!?」
「う、う~ん。そうだけど……」

 もう夜も遅いし、彼を興奮させてはいけないと思い。
 言われた通り、シングル布団の中に二人して入ってみる。
 思った以上に中は狭く、お互いの身体がぴったりとくっついてしまう。

「おやすみ、おっさん……」

 と耳元で囁く航太。
 ふと視線を右手にやると、嬉しそうに微笑む彼の横顔があった。
 安心しきっている。
 よっぽど、俺のことを信頼しているようだな。

 ~10分後~

「……」

 全然、眠れない。
 この布団へ誰かが入ることを、許したのは”あいつ”ぐらいだ。
 数年ぶりに人肌を感じた相手が男とはな……。

 でも、航太のやつ。
 起きている時は、つんけんしているくせに。寝ている時はえらく甘えん坊だ。
 今も俺の右腕に抱きついて、離さない。

「おっさん……オレと、ずっと一緒にいて」
「!?」

 その言葉に耳を疑ったが、すぐに寝言だと判明した。
 瞼を閉じているから。

 しかし、こいつも色々と苦労しているんだろう。
 友情に飢えているようだ。

「んん……」

 うなされていると思ったら、次の瞬間。思わぬ行動に走る。
 自身の右脚を、俺の腹の上にのせてきた。
 膝をすりすりと、こすり付けてくる。

「くっ!」

 堪えきれなくなった俺は、布団から飛び出す。

「はぁはぁ……どうかしている」

 こんな幼い少年に興奮するなんて……。