「今、なんて言った?」
「だ~から! オレの方が、この衣装。絶っ対似合うと思うって言ったの!」

 胸の前で腕を組み、自信たっぷりと言った顔で、俺を睨む航太。
 どうして、男の彼が女キャラのコスをしたがるんだ?

 ~それから数日後~

 航太は一体、どうしてあんなことを言ったのだろう……。
 そんなに俺の元カノ、未来がエロくて羨ましかったのか?
 だからと言って、悔しくて自ら女のコスプレをしたいと思うかな。
 最近の若者はよく分からん。

 
 担当編集の高砂さんに言われた通り、初のロリものに挑戦しているが。
 思うように原稿が進まない。
 今まで書いていたムチムチシリーズは、元カノをモデルにしているから、書きやすい。
 航太に見せた未来のコスプレ写真集を、今でも大事に持っているのは、資料としても利用しているからだ。
 まあ、他にも使用用途が無いわけじゃない……。
 
 それに対して、今回のロリものはモデルがいない。
 インターネットでマンガや合法グラドルなどを参考に描いてみるが……難しい。
 キーボードを叩いてはいるが、ずっとエンターキーばかり。
 白紙のまま。
 今日は原稿を書くのを諦めて、コンビニへ酒でも買いに行くかと立ち上がった瞬間。

『ピンポーン』と玄関のチャイムが鳴った。

 ひょっとして、お隣りの美咲(みさき) (あや)さんか?
 いや、航太だったりして?
 相手が誰か確認もせずに、玄関のドアを勢い良く開いた。

「ちわっす、宅急便です。ここにサイン良いっすか?」
「……」

 一気に萎えてしまった。
 チャイムを鳴らしたのは、屈強な身体の宅配業者だったから。
 とりあえず、言われた通りにサインを書いて、荷物を受け取る。

「あざーす!」
「ど、どうもおつかれさま……」

 受け取った荷物は、大きなビニール袋だった。
 手に持つと随分、軽い。
 なんだろ? こんなの注文した覚えはないけど。
 玄関のドアを閉めて、送り主を確認する。

『博多社 “出ちゃった”編集部、高砂(たかさご) 美羽(みう)

「なんだ、高砂さんか……」

 でも、一体なにを送ってきたんだ?
 書類にしては軽いし……。
 とりあえず、ビニール袋を開けて中を確認してみる。

 すると中には、薄い透明のビニール袋が三つ入っていた。
 なんだろうと取り出してみたら……大人の俺が、持っていちゃいけないモノが混入している。

「セーラー服と体操服、それにスク水……」

 三つともビニール袋で梱包されているから、新品だと思うが。
 このご時世、こんなものを俺が所持していたら、変な人だと誤解されそう。

 なにかの間違いだと、スマホを取り出して高砂さんに電話をかけようと思ったら。
 一枚の用紙がひらりと、床に落ちた。
 便せんだ……高砂さんからのメッセージらしい。

『SYO先生、進捗いかがですか? これ資料として使ってください』

 彼女のメッセージを読んで、思わず吹き出してしまう。

「ブフッ!?」
 
『ムチムチシリーズより、リアルに描いて欲しいので。ロリっ子が着る制服を用意しました。たくさん妄想してください!』

 そういうことか……。
 しかしこの人、よく出版社に採用されたな。
 ん? まだメッセージには続きがあるみたいだ。

『追伸。その制服は全部、私のお古ですので。使用後は好きにしてください。捨てても売っても』

「……」

 捨てても逮捕、売っても逮捕になるんじゃないか。
 というか……この古着で一体、どう物語を想像すればいいんだ?
 
  ※
 
 ビニール袋から制服を取り出し、畳の上に広げてみる。
 確かに高砂さんが学生時代、使用していたもので間違いないようだ。
 だって、どの服にも彼女の名前が書いてあるから……。

『2-A 高砂 美羽』

 つまり彼女としては、中学2年生ぐらいのヒロインを書いて欲しいってことか?
 でもな、身近なところにそんな子供はいない……いや、いる。
 お隣りの美咲さん家。航太は確か中学2年生。

 って、俺は何を考えているんだ。あの子は男だ。
 こんな制服を着るわけないだろう。