自分でもなぜここまで元カノのことで、怒っているのか分からなかった。
 ひょっとして、まだ引きずっているから……。
 好きだから怒りを覚えているのか?

 いきなり自宅に誘われた航太は動揺していた。
 しかし俺はそんな彼を無視して、航太の腕を掴む。
 掴んで気がついたことだが、かなり細い。手のひらに収まりそうだ……。

「ちょっ、おっさん……悪かったって」
「いいや! とりあえず、あいつの写真集を見ていけ。そしたら俺の言っていることも分かる」

 自宅の扉を開くと、ゴミだらけの汚い部屋が見える。
 この前、航太に掃除してもらったというのに、3日で元に戻ってしまった。

「うわっ……なんでこんなに汚くしてんの?」

 ドン引きする航太を無視して、早く家に上がるよう促す。

「いいから、さっさと入れ。写真集を出してくるから……」

 俺がいつも作業したり、食事するちゃぶ台の前に航太を座らせると。
 押し入れの戸を開き、ダンボール箱を漁り始める。
 もう何年も見てないから、どこにあるか分からない。

 しびれを切らした航太がため息をつく。

「はぁ……もういいよ、おっさん」
「待て待て! この辺にあったから……お! これだ」

 ちょっと埃をかぶっているが、間違いない。
 昔、付き合っている時。未来からもらったコスプレ写真集。
 航太の言う通り、あいつは普段、地味な女の子だったけど。

 変わった趣味があって、一つはマンガを描くこと。
 もう一つは、好きなアニメやマンガのキャラクターになりきること。
 つまり、コスプレイヤーだ。

 コミケが開催された時、かなり際どいコスをするのが好きだった。
 その趣味のおかげで、よく写真集を自作しては俺にプレゼントしてくれた。

「ほぉれ、これでも地味だって言えるか?」

 ちゃぶ台の上にぶ厚い写真集を、何冊も載せてやる。
 自分のことのように、自慢気に。

「な、なにこれ……」
「俺の元カノ、未来のコスプレ写真集だ」
「こんなの別れても、ずっと持ってるとかキモい」
「……」

 確かにそう言われたら、そうか……。

 ~10分後~

 航太はあれから黙々と、未来の写真集を眺めている。
 一冊、読み終えるとすぐ次の写真集に手を出す。
 だが終始無言。

「……」

 眉間に皺を寄せて、未来のコスプレ写真を眺める航太。
 特に反応はない。
 それはそれで、寂しい。
 ここまで攻めたコスプレ写真を見せてやっているのに……。
 同じ男なら、興奮してもいいだろ。

「なあ、どうだ? こいつ、脱ぐとすごいだろ? 着やせするタイプでさ、胸もGカップあるらしいぜ」

 と写真の中の、胸を指差す。
 すると、航太は舌打ちをして苛立つ。

「ちっ、うるせぇな! おっさんが巨乳好きってだけじゃん! だいたい、うちの母ちゃんの方がデカいし……」

 なんか変な自慢大会になってしまった。

  ※

「それでどうだった? 俺の元カノ、全然地味じゃないだろ。趣味でコスプレする、エロいおねえちゃんじゃないか?」
「……」

 不満そうに胸の前で、腕を組む航太。

「お前も男だから、思うだろ? こんなエロいお姉さんを彼女にしたい、とか?」
「全然! むしろだらしない身体って思った! 見ていてイライラする!」
「え……」
「ていうかさ、思ったんだけど。この豚女って、あのエロマンガに出てくるモデル?」

 そう言って航太が指差すのは、部屋にある本棚だ。
 ずらっと横に並ぶエロマンガ雑誌。
 俺が原作を担当しているムチムチシリーズ。毎度、作品の中で集団に襲われている女子大生……。
 航太はそのヒロインが、元カノ。未来じゃないかと聞いているのだ。

 今まで指摘されたことは無かったので、心臓を掴まれるような思いに駆られた。

「その……うん。あいつをモデルに描いているよ」
「ふ~ん」

 汚物を見るかのような、冷たい目で俺を睨みつける。

「正直さ。このコスっていうの? オレが、着た方が似合うと思う」
「え?」

 一体、どうしたらそうなるんだ。