パシャー!
車内にシャッター音が響き渡る――――。
副長は急に力が抜けたように、席にドサリと深くもたれかかると目から光が消えた。
「えっ!? 何? 何なのよこれ!!」
蚊の鳴くような声がスマホから聞こえてきて、画面の中にはブラウンのショートカット姿の可愛い女の子のアバターが慌てている。
あちゃー……。
瑛士は額を押さえた。だが、このままアクアラインまで無事に行くには、副長には申し訳ないけどスマホに入ってもらっていた方がいいかもしれない。車内でシアンと大喧嘩になってしまってはどうなるか分からないのだ。瑛士は深くため息をついた。
「居心地はどう? くふふふ……」
シアンはまるでネズミをいたぶる猫のように、楽しそうに目をキラキラさせながら女の子のアバターをつつく。
「く、くすぐったいって! ちょ、ちょっと止めなさいよ! 早く出して! きゃははは!」
アバターはシアンの指を必死に避けていたが、つつかれると相当にくすぐったいようでつつかれる度に凄い声で笑っている。
「もう怒鳴らないって約束してくれたら出してもいいよ。それそれっ。きゃははは!」
シアンは楽しそうに指先でアバターを画面の隅に追い込み、もてあそびながら笑い声をあげた。
「何よ! 怒らせるあんた達が悪いんでしょ! きゃははは!」
アバターは必死に画面を縦横無尽に逃げ回る。だが、シアンの指はかわし続けられない。
「だからレジスタンスは嫌なのよ!! きゃははは!」
アバターは怒ったり笑ったり忙しかった。
「シアン、ちょっといいかな?」
瑛士はそのレジスタンスへの憎悪がどこから来ているのか気になり、シアンの指を制止して聞いてみる。
「あのぉ、僕らは市民のみんなのために戦っているのに、何でそんなにレジスタンスを嫌うんですか?」
命がけでずっと戦ってきたのに嫌われてしまうのであれば、何のためにやってきたか分からないのだ。
「ふんっ! あんたらのおかげで大切な人が死んだのよ! この人殺し!!」
アバターは凄い形相で怒りながら涙をポロリとこぼし、瑛士を指さした。
瑛士は一体どういうことか理解できず、シアンと顔を見合わせた。
その後、切々と語られた話を総合すると、副長はAIの核攻撃で両親を失い、施設で育ったのだが、施設内でできた恋人がレジスタンスにスカウトされ、死んでしまったらしい。
「あんた達のせいよ! 健太を返してよ! うわぁぁぁん!」
アバターはスマホの中で泣き崩れた。
瑛士は言葉を失い、ただ、肩を揺らすアバターを見ていた。殺したのはAIであって、レジスタンスのせいじゃない。しかし、そんな正論を彼女にぶつけてもどうにもならない気がしていたのだ。
「でも、それは健太くんの意志を侮辱するってことじゃないの?」
シアンはつまらなそうな顔をして言い放った。
「ぶ、侮辱……?」
「だって、健太くんは死ぬ可能性が高いことを分かっていて、それでもレジスタンスに行ったんでしょ? その決意を尊重しないでどうするの?」
そ、それは……。
アバターはキュッと口を結ぶとうつむいて動かなくなる。
瑛士はシアンの視点にハッとさせられ、ただ思考停止していた自分を恥じた。
「いや……、でも……。本当にそんな覚悟があったかだなんて……」
アバターは何とか抗弁しようと涙でグチャグチャになった顔を上げる。
「なら聞いてみたら?」
シアンは指先でキュッキュと不思議な模様をスマホに描いた。
すると、淡い金色の光が流れ星のようにスーッと現れ、アバターの隣で止まると静かに輝く。その光は徐々に大きくなり、輝きを増す中で、神秘的な形がゆっくりと浮き上がってくる。
「えっ!? 何なの……、ま、まさか……」
副長は驚愕で目を見開き、その場に凍りついた。彼女の目の前で、その神秘的な形は幻想的な光と影を伴いながら次第に少年の形へと変わっていくのだった。
現れた少年はブリーチしたショートの金髪を揺らし、優しい笑顔を副長に向ける。
うそ……。
副長は震える声で囁き、信じられないという様子で首を振りながら混乱と感動の中で彼を見つめた。
「絵梨ごめんな……」
少年は副長の頬に手を伸ばし、その滑らかな肌を指先でなぞると、心を込めた温かな声をかけた。
「健太ぁ! うわぁぁぁん」
絵梨と呼ばれた副長は、抑えきれない感情の波に飲み込まれ少年へと飛びつく。それは長い間つもりに積もった辛く苦しい想いの発露だった。
沈黙の中で、健太は絵梨を優しく抱きしめ、彼女の背中をそっと叩く。彼の顔には静かなる安堵が浮かび、その深い眼差しには、言葉では言い尽くせないほどの情感が込められていた。
瑛士はまるでイタコ芸のようなシアンの技に首をかしげながら、その奇跡の再開の様子を静かに眺める。
人間をスマホに閉じ込めるということ自体、既に不思議で理解しがたいが、死者さえも呼び出せるなら、それはもはや神の技だ。瑛士は改めてシアンの不可解で圧倒的な力に心を奪われる。
「これも……、科学なの?」
瑛士は眉を寄せ、納得がいかない様子でシアンを見る。
「ふふっ、科学にできないことなんて無いのさ。優しい科学だよ」
そう言いながらシアンは二人の仲睦まじい様子を目を細めながら眺めた。
車内にシャッター音が響き渡る――――。
副長は急に力が抜けたように、席にドサリと深くもたれかかると目から光が消えた。
「えっ!? 何? 何なのよこれ!!」
蚊の鳴くような声がスマホから聞こえてきて、画面の中にはブラウンのショートカット姿の可愛い女の子のアバターが慌てている。
あちゃー……。
瑛士は額を押さえた。だが、このままアクアラインまで無事に行くには、副長には申し訳ないけどスマホに入ってもらっていた方がいいかもしれない。車内でシアンと大喧嘩になってしまってはどうなるか分からないのだ。瑛士は深くため息をついた。
「居心地はどう? くふふふ……」
シアンはまるでネズミをいたぶる猫のように、楽しそうに目をキラキラさせながら女の子のアバターをつつく。
「く、くすぐったいって! ちょ、ちょっと止めなさいよ! 早く出して! きゃははは!」
アバターはシアンの指を必死に避けていたが、つつかれると相当にくすぐったいようでつつかれる度に凄い声で笑っている。
「もう怒鳴らないって約束してくれたら出してもいいよ。それそれっ。きゃははは!」
シアンは楽しそうに指先でアバターを画面の隅に追い込み、もてあそびながら笑い声をあげた。
「何よ! 怒らせるあんた達が悪いんでしょ! きゃははは!」
アバターは必死に画面を縦横無尽に逃げ回る。だが、シアンの指はかわし続けられない。
「だからレジスタンスは嫌なのよ!! きゃははは!」
アバターは怒ったり笑ったり忙しかった。
「シアン、ちょっといいかな?」
瑛士はそのレジスタンスへの憎悪がどこから来ているのか気になり、シアンの指を制止して聞いてみる。
「あのぉ、僕らは市民のみんなのために戦っているのに、何でそんなにレジスタンスを嫌うんですか?」
命がけでずっと戦ってきたのに嫌われてしまうのであれば、何のためにやってきたか分からないのだ。
「ふんっ! あんたらのおかげで大切な人が死んだのよ! この人殺し!!」
アバターは凄い形相で怒りながら涙をポロリとこぼし、瑛士を指さした。
瑛士は一体どういうことか理解できず、シアンと顔を見合わせた。
その後、切々と語られた話を総合すると、副長はAIの核攻撃で両親を失い、施設で育ったのだが、施設内でできた恋人がレジスタンスにスカウトされ、死んでしまったらしい。
「あんた達のせいよ! 健太を返してよ! うわぁぁぁん!」
アバターはスマホの中で泣き崩れた。
瑛士は言葉を失い、ただ、肩を揺らすアバターを見ていた。殺したのはAIであって、レジスタンスのせいじゃない。しかし、そんな正論を彼女にぶつけてもどうにもならない気がしていたのだ。
「でも、それは健太くんの意志を侮辱するってことじゃないの?」
シアンはつまらなそうな顔をして言い放った。
「ぶ、侮辱……?」
「だって、健太くんは死ぬ可能性が高いことを分かっていて、それでもレジスタンスに行ったんでしょ? その決意を尊重しないでどうするの?」
そ、それは……。
アバターはキュッと口を結ぶとうつむいて動かなくなる。
瑛士はシアンの視点にハッとさせられ、ただ思考停止していた自分を恥じた。
「いや……、でも……。本当にそんな覚悟があったかだなんて……」
アバターは何とか抗弁しようと涙でグチャグチャになった顔を上げる。
「なら聞いてみたら?」
シアンは指先でキュッキュと不思議な模様をスマホに描いた。
すると、淡い金色の光が流れ星のようにスーッと現れ、アバターの隣で止まると静かに輝く。その光は徐々に大きくなり、輝きを増す中で、神秘的な形がゆっくりと浮き上がってくる。
「えっ!? 何なの……、ま、まさか……」
副長は驚愕で目を見開き、その場に凍りついた。彼女の目の前で、その神秘的な形は幻想的な光と影を伴いながら次第に少年の形へと変わっていくのだった。
現れた少年はブリーチしたショートの金髪を揺らし、優しい笑顔を副長に向ける。
うそ……。
副長は震える声で囁き、信じられないという様子で首を振りながら混乱と感動の中で彼を見つめた。
「絵梨ごめんな……」
少年は副長の頬に手を伸ばし、その滑らかな肌を指先でなぞると、心を込めた温かな声をかけた。
「健太ぁ! うわぁぁぁん」
絵梨と呼ばれた副長は、抑えきれない感情の波に飲み込まれ少年へと飛びつく。それは長い間つもりに積もった辛く苦しい想いの発露だった。
沈黙の中で、健太は絵梨を優しく抱きしめ、彼女の背中をそっと叩く。彼の顔には静かなる安堵が浮かび、その深い眼差しには、言葉では言い尽くせないほどの情感が込められていた。
瑛士はまるでイタコ芸のようなシアンの技に首をかしげながら、その奇跡の再開の様子を静かに眺める。
人間をスマホに閉じ込めるということ自体、既に不思議で理解しがたいが、死者さえも呼び出せるなら、それはもはや神の技だ。瑛士は改めてシアンの不可解で圧倒的な力に心を奪われる。
「これも……、科学なの?」
瑛士は眉を寄せ、納得がいかない様子でシアンを見る。
「ふふっ、科学にできないことなんて無いのさ。優しい科学だよ」
そう言いながらシアンは二人の仲睦まじい様子を目を細めながら眺めた。