パシャー! というシャッター音が瓦礫の山に響き渡る。
刹那、ズン! という腹に響く爆裂音が瓦礫を吹き飛ばし、金属の断片が飛び散る。同時にサイボストルの冷たく、無機質な頭部が、カン! カン! と瓦礫に弾かれ、不気味に転がり落ちていった。
どうやら瓦礫の間にサイボストルが潜んでいたらしい。
「待ち伏せか! 知恵をつけてやがる」
慌てて後退し、瓦礫の隙間に隠れる瑛士。しかし、待ち伏せは大部隊だった。次々と数十台を数えるサイボストルたちが飛び出し、瓦礫を吹き飛ばす勢いで激しい銃撃を加えてくる。
国道十五号線はいきなり銃弾の飛び交う激戦地と化した。
「上等じゃん! きゃははは!」
シアンは、さっと瓦礫の裏に隠れるとスマホのカメラ部分だけを瓦礫の先に出し、画面で様子を確認する。
「お馬鹿さーん!」
ターゲットを見定めながらシャッターを押し、一匹ずつ始末していくシアン。
パンパンという乾いた銃声が響く中、パシャー! パシャー! というシャッター音と共にサイボストルが破壊される衝撃音が次々と地面を揺らした。
突如、ヴーンという不気味な音が銃弾飛び交う激戦地に響く。
「な、何だ!?」
瑛士は瓦礫の隙間から辺りを伺うと、ドローンが次々と浮上していくのが見えた。それは潜んでいた百台ほどのドローンが一斉に浮上した音だったのだ。
「シアン! ドローンだ、ドローンが来た!」
「ちっ! この忙しい時に!」
シアンは恨めしそうに爆弾をぶら下げながら近づいてくるドローンをにらんだ。
「仕方ない……。電池が持ちますように……」
シアンはスマホ画面に不思議な動きで指先を這わせていく……。
ブワッと黄金色の輝きを纏うスマホ。
何をやろうとしているか分からなかったが、ここでモバイルバッテリーが電池切れになったら一巻の終わりである。
「電池持てよ~! 頼むよ~!」
瑛士は冷や汗を流しながら手を組んで必死にスマホに祈りをささげた。
祈りが通じたのか、シアンはニヤッと笑うとスマホを空に向ける。
「ポチっとな!」
シャッター音が辺りに響き渡る。
パシャー!
刹那、スマホから暗黒が噴き出し、辺りが一気に暗闇に沈む――――。
ちょ、ちょっとそれ何……?
瑛士はその闇の踊る禍々しい様子に圧倒される。それは黒煙が噴き出したようなありふれた現象ではなく、まるで光を喰らう巨大な影が解き放たれたかのようだった。その動きは野性的で、あっという間に周囲の光を奪い去るさまはどう猛な魔物のようにさえ見えた。
瞬く間に辺りを飲み込んでいく暗闇。すぐに世界から一切の光が消え去った。あんなに輝いていた太陽もどこかへ消えてしまい、もはや目には何も映らない。
な、なんだよぉ!
瑛士は真っ暗闇の洞窟に落とされたような、どっちが上かもわからない状態で混乱の極みに陥った。
その漆黒の世界の中で、パリパリと乾いた放電音があちこちから響いてくる。
直後、ドン! ド、ドン! と、まるで打ち上げ花火のような炸裂音が辺りに響き渡った。
どうやら敵が破壊されているらしい。瑛士はその物理法則を無視した意味不明な攻撃に唖然とした。なぜ光が無くなってしまったのか? その中で一体何が起こっているのか? 全く何も分からない世界に瑛士はブルっと身震いをして、自らの無力さにため息をついた。
やがて、光が戻ってくる――――。
まるで夜が明けたように、太陽の光がまた世界を照らし始めた。
「ふふーん、僕の勝ちだゾ!」
シアンは瓦礫から顔を出すと満足げに胸を張る。
瑛士もそっと顔を出してみた。見ればサイボストルたちもみんなひっくり返って、ピクピクと足を痙攣させたまま黒い煙を上げている。
す、すごい……。
あの大規模襲撃を謎なスマホの攻撃一発で乗り切ったシアンに、瑛士は感嘆の息を漏らした。倉庫で拾ったただの中古スマホが世界から光を奪い、敵を一掃したのだ。
理屈は全く分からないが、この少女さえいてくれたらクォンタムタワーを倒すのは夢ではない。
瑛士はシアンに駆け寄ると手を取り、興奮気味に言った。
「行こう! 風の塔へ! 僕らで悪を滅ぼすんだ」
「ふふっ、やる気になった?」
シアンは茶目っ気のある笑顔を見せる。
「おう! 気持ちで負けちゃダメだよね。あいつを倒すぞ!」
瑛士は廃ビルの上に頭をのぞかせる純白の塔をビシッと指さし、決意を込めてにらんだ。
「よーし、倒すぞ! おー!」
雲一つない青空にむけてシアンは楽しそうに、白いすらっとした腕を突き上げた。
◇
川崎目指して国道十五号線をひたすら南下する二人――――。
「ねぇ……、シアン?」
ピョコピョコと瓦礫を避けて跳びながら、楽しそうに隣を歩くシアンに、瑛士は意を決して声をかける。
「んーー? お腹すいたの? はい」
シアンはポケットから小さな黒い板みたいなものを出して瑛士に手渡し、自分も口にくわえた。
瑛士はいぶかしげにその板を眺める。
「昆布だよ。美味しいよ」
そう言うとシアンは歯を立てて昆布をかみちぎった。
「いや、そうじゃなくてさ……。僕もスマホで戦いたいんだ。どうしたらその『世界のこと』とやらを分かるようになるのかなって」
「ふふーん、知りたい?」
シアンはいたずらっ子の笑みを浮かべ、碧い目をキラっと光らせる。
「そ、そりゃあ……。僕も強くなりたいんだよね……」
瑛士はうつむきながら頬を赤らめて頑張って答えた。
「うーん、だったら深呼吸だな!」
シアンはパチッとウインクして人差し指を振る。
はぁ?
瑛士は困惑した。深呼吸したらなぜスマホが兵器になるのか全く意味が分からない。しかし、シアンは自信を持ってニコニコと瑛士を見つめている。そこには、冗談でからかっているようなニュアンスは無く、それが瑛士を一層戸惑わせた。
刹那、ズン! という腹に響く爆裂音が瓦礫を吹き飛ばし、金属の断片が飛び散る。同時にサイボストルの冷たく、無機質な頭部が、カン! カン! と瓦礫に弾かれ、不気味に転がり落ちていった。
どうやら瓦礫の間にサイボストルが潜んでいたらしい。
「待ち伏せか! 知恵をつけてやがる」
慌てて後退し、瓦礫の隙間に隠れる瑛士。しかし、待ち伏せは大部隊だった。次々と数十台を数えるサイボストルたちが飛び出し、瓦礫を吹き飛ばす勢いで激しい銃撃を加えてくる。
国道十五号線はいきなり銃弾の飛び交う激戦地と化した。
「上等じゃん! きゃははは!」
シアンは、さっと瓦礫の裏に隠れるとスマホのカメラ部分だけを瓦礫の先に出し、画面で様子を確認する。
「お馬鹿さーん!」
ターゲットを見定めながらシャッターを押し、一匹ずつ始末していくシアン。
パンパンという乾いた銃声が響く中、パシャー! パシャー! というシャッター音と共にサイボストルが破壊される衝撃音が次々と地面を揺らした。
突如、ヴーンという不気味な音が銃弾飛び交う激戦地に響く。
「な、何だ!?」
瑛士は瓦礫の隙間から辺りを伺うと、ドローンが次々と浮上していくのが見えた。それは潜んでいた百台ほどのドローンが一斉に浮上した音だったのだ。
「シアン! ドローンだ、ドローンが来た!」
「ちっ! この忙しい時に!」
シアンは恨めしそうに爆弾をぶら下げながら近づいてくるドローンをにらんだ。
「仕方ない……。電池が持ちますように……」
シアンはスマホ画面に不思議な動きで指先を這わせていく……。
ブワッと黄金色の輝きを纏うスマホ。
何をやろうとしているか分からなかったが、ここでモバイルバッテリーが電池切れになったら一巻の終わりである。
「電池持てよ~! 頼むよ~!」
瑛士は冷や汗を流しながら手を組んで必死にスマホに祈りをささげた。
祈りが通じたのか、シアンはニヤッと笑うとスマホを空に向ける。
「ポチっとな!」
シャッター音が辺りに響き渡る。
パシャー!
刹那、スマホから暗黒が噴き出し、辺りが一気に暗闇に沈む――――。
ちょ、ちょっとそれ何……?
瑛士はその闇の踊る禍々しい様子に圧倒される。それは黒煙が噴き出したようなありふれた現象ではなく、まるで光を喰らう巨大な影が解き放たれたかのようだった。その動きは野性的で、あっという間に周囲の光を奪い去るさまはどう猛な魔物のようにさえ見えた。
瞬く間に辺りを飲み込んでいく暗闇。すぐに世界から一切の光が消え去った。あんなに輝いていた太陽もどこかへ消えてしまい、もはや目には何も映らない。
な、なんだよぉ!
瑛士は真っ暗闇の洞窟に落とされたような、どっちが上かもわからない状態で混乱の極みに陥った。
その漆黒の世界の中で、パリパリと乾いた放電音があちこちから響いてくる。
直後、ドン! ド、ドン! と、まるで打ち上げ花火のような炸裂音が辺りに響き渡った。
どうやら敵が破壊されているらしい。瑛士はその物理法則を無視した意味不明な攻撃に唖然とした。なぜ光が無くなってしまったのか? その中で一体何が起こっているのか? 全く何も分からない世界に瑛士はブルっと身震いをして、自らの無力さにため息をついた。
やがて、光が戻ってくる――――。
まるで夜が明けたように、太陽の光がまた世界を照らし始めた。
「ふふーん、僕の勝ちだゾ!」
シアンは瓦礫から顔を出すと満足げに胸を張る。
瑛士もそっと顔を出してみた。見ればサイボストルたちもみんなひっくり返って、ピクピクと足を痙攣させたまま黒い煙を上げている。
す、すごい……。
あの大規模襲撃を謎なスマホの攻撃一発で乗り切ったシアンに、瑛士は感嘆の息を漏らした。倉庫で拾ったただの中古スマホが世界から光を奪い、敵を一掃したのだ。
理屈は全く分からないが、この少女さえいてくれたらクォンタムタワーを倒すのは夢ではない。
瑛士はシアンに駆け寄ると手を取り、興奮気味に言った。
「行こう! 風の塔へ! 僕らで悪を滅ぼすんだ」
「ふふっ、やる気になった?」
シアンは茶目っ気のある笑顔を見せる。
「おう! 気持ちで負けちゃダメだよね。あいつを倒すぞ!」
瑛士は廃ビルの上に頭をのぞかせる純白の塔をビシッと指さし、決意を込めてにらんだ。
「よーし、倒すぞ! おー!」
雲一つない青空にむけてシアンは楽しそうに、白いすらっとした腕を突き上げた。
◇
川崎目指して国道十五号線をひたすら南下する二人――――。
「ねぇ……、シアン?」
ピョコピョコと瓦礫を避けて跳びながら、楽しそうに隣を歩くシアンに、瑛士は意を決して声をかける。
「んーー? お腹すいたの? はい」
シアンはポケットから小さな黒い板みたいなものを出して瑛士に手渡し、自分も口にくわえた。
瑛士はいぶかしげにその板を眺める。
「昆布だよ。美味しいよ」
そう言うとシアンは歯を立てて昆布をかみちぎった。
「いや、そうじゃなくてさ……。僕もスマホで戦いたいんだ。どうしたらその『世界のこと』とやらを分かるようになるのかなって」
「ふふーん、知りたい?」
シアンはいたずらっ子の笑みを浮かべ、碧い目をキラっと光らせる。
「そ、そりゃあ……。僕も強くなりたいんだよね……」
瑛士はうつむきながら頬を赤らめて頑張って答えた。
「うーん、だったら深呼吸だな!」
シアンはパチッとウインクして人差し指を振る。
はぁ?
瑛士は困惑した。深呼吸したらなぜスマホが兵器になるのか全く意味が分からない。しかし、シアンは自信を持ってニコニコと瑛士を見つめている。そこには、冗談でからかっているようなニュアンスは無く、それが瑛士を一層戸惑わせた。