「でも、お願い。僕の事は忘れて欲しいんだ」

 掠れる声でハチ君は言った。私は首を振る。

「無理。忘れないよ」

 いくらともにした時間が短くても、それは出来ない。何より、絶対になかった事になんかしたくない。

「だけど」
「ハチ君を忘れななくても、前を向いて生きていくよ。大丈夫。私、ハチ君にいろんなものを貰ったから」

 初めての恋、一緒に見た夜空の思い出。ミルフィーのマスコット、たくさんの笑顔に勇気。
 ずっとずっと自分の中になかったものを、いっぱい貰った。
 忘られる訳がない、永遠の宝物。かけがえのないもの。

「星奈ちゃん」

 ハチ君は切ない顔をして言った。

「約束する。トラウマにはしないし、嘆いたりもしない」

 そんな事するために再会した訳じゃないから。
 出会ったことに意味はあったし、過ごした時間も大切だった。
 この星空を、あの頃一緒に見れて良かった。おばあちゃんちがこの病院の近くで、夏休みにおばあちゃんちに来れて良かった。全ての偶然に心から感謝だ。