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 お腹いっぱいじゃないのに、いっぱいな気がする。こういうのを胸がいっぱいっていうのだろうか。切なくて、苦しくて、それでも私は車椅子のハチ君を押して病院を出た。
 外は綺麗な星空。これが多分、最後のデート。

 ハチ君は部屋着じゃなく少しおめかししていた。とは言っても、白いYシャツに黒いパンツだけど。私はお母さん達にねだって、淡いピンクのワンピースを着た。夜空には、淡い色の方が映えると思ったから。髪の毛には金色の星のヘアピンを付けた。
 本当はお別れなんかしたくなかった。正直いまだに気持ちの整理なんかできてなかった。ずっとそばにいたいと、思うようになれたのに。こんなの酷いよ。

 もっとハチ君を知りたい。深い関係になりたい。そう思いながら車椅子を押して行く。

「懐かしいね、星奈ちゃん」
「うん、そうだね。ハチ君」

 子供の頃無邪気に見上げた星空は、遠くて届かないものに思えた。
 だけど、それは今も同じ。
 いつも見ていた場所に止まり、片手を二人重ね合わせる。

「星奈ちゃんにまた会えて良かった」

 震える声でハチ君は言った。

「私もだよ」
「こんな、僕のわがままに付き合わせて本当にごめん」
「大丈夫ではないけど、仕方がないよ。会いたかったもん。何度でも言うよ。会いにきてくれてありがとう。ハチ君」
「星奈ちゃん」

 ハチ君はすでに泣いていた。私も涙を堪える。