「どうしても諦めきれなくて、ごめん。好きになってごめん、本当にごめん」
「謝らないで。私はハチ君に出会えて良かったと思ってる」
「星奈ちゃん」
「会えなかったらと思うと怖くなるぐらい」
「それは、僕もだよ。星奈ちゃんとの思い出があるから生きてこれた」

 ハチ君へ笑いながら泣いていた。それはとても美しい涙だった。

「会えて良かった、僕の手でだからこそ幸せにできないことが悔しいよ」
「私はハチ君に出会えて幸せだよ。過去形じゃなく、これからもずっと幸せだよ」

 ハチ君の手を取り私は言った。お互いの手を握り合う。涙が手の上に落ちる。

「今日、星奈ちゃんにひとつだけお願いがあるんだ」

 いつものように大型犬のように、ハチ君は甘い声で言った。

「なあに? ハチ君」

 私は気合を入れて瞬きをする。一体何を頼まれるのだろう。

「星を見に連れって欲しい。病院の庭なら、いいよって看護師さんも言ってたから」
「いいの?」

 私は正直不安に思いながら尋ねる。ハチ君は少し寂しそうな目で小さく笑って足元を見た。どこか申し訳なさそうに、ハチ君は俯く。