「でも、できればもっと早く相談して欲しかったな、お父さん」
「ごめん、お父さん。本当にありがとう」

 涙が止まらない。そうだ。ハチ君はきっともうすぐ死んでしまうんだ。皆のやり取りを聞いて唐突に理解した。そう思うと悲しくて、苦しくて、胸が張り裂けそうになった。ハチ君。ハチ君、ハチ君。

「愛内さん、北斗が目を覚ましたそうよ。来てくれるかしら」

 ハチ君のお母さんが言った。

「はい、行きます」

 私が泣いてしまっていてはハチ君が動揺するだろう。だから私は無理やり涙を拭って気丈でいようと誓った。笑え。何も心配ないって顔をしろ。でも無理だった。

 ハチ君を目の前にすると、また涙が溢れてきた。

「ハチ、く、ん」
「星奈ちゃん、心配かけてごめんね。僕もう長くないんだ。本当はそれを知った上であの学校行った。最低だよね。ごめんね」

 私は無言で首を振る。青白いハチ君の笑顔が人形のように美しくて、それがますます悲しかった。病院着のハチ君。私が昔会った時と同じ服だった。あの頃から、ハチ君はずっと死の匂いと戦っていたのだろう。
 きっと幼心に怖かっただろう。不安だっただろう。無限に負の感情が湧いてきて寝られない日もあたかもしれない。そう思うとなんとも言えない気持ちになった。