「? ハチ君?」
「本当ごめんね。さあ。ダブルデートの続きをしよう。田城さん達は?」
「あとちょっとで来るはず。来たら皆でカラオケしようか。ハチ君」
「僕、カラオケって初めて。病院の中でならあるけど」
「あはっ、珍しいね。教えてあげるよ。カラオケぐらい」

 ハチ君が遊びについてほぼ何も知らない理由。私に強引にアタックしてくる理由。
 本当はうっすら理由に気づいていたけど、私はあえて知らないフリをした。向き合ったら、悲しい現実が見える気がしたから。

「お待たせ愛内さん、八田君」

 田城さんが慌てた様子で言った。後ろには工藤君もいる。さっきまでふたりで本屋にいたのだろう。本屋の紙袋を持っている。

「ごめんね、もう僕大丈夫だから」

 実際、ハチ君の顔色はだいぶ良くなっていた。

「熱はない、ね」

 私がハチ君の頭を触ると、ハチ君は恥ずかしそうに頬を染めた。うん、もう熱はないみたい。

「ハチ君、この曲わかる? 一緒に歌おう!」

 マイクを手に取り、ハチ君の隣に私は立つ。片手にはタンバリン。大はしゃぎだ。ハチ君は苦笑いをして、頷いた。マイクももちろん握っている。
 私は現実から目をそらすようにハチ君と一緒に歌って、笑ってその場を楽しんだ。