「思い出さなせないなら、思い出せないでいいよ」

 苦笑いを浮かべてハチ君は私を遠い目で見た。
 そしてふと気づく。ハチ君の顔が赤い事に。

「熱あるよね? ハチ君」

 顔が真っ赤だ。呼吸も荒い。もしかして退院した今も、病気が治りきっていないんじゃないだろうか。

「少しテンション上がりすぎて。休めば治る」
「田城さん達に連絡して、カラオケルームに先に行ってよう。そこで休もうか」
「ごめんなさい。星奈ちゃん」
「気にしないで。ハチ君って確か入院してたよね? 体弱いんでしょ」
「うん。弱い。でも大丈夫だから」

 そう言いながらヨロヨロなハチ君。大丈夫、という言葉を素直に受け止められない。
 カラオケに着くと、ハチ君を横にしてあげる。するとすぐに眠っていた。

「少し私も寝ようかな」

 そして夢を見た。小さな頃の夢だった。
 広い森の近くの、おばあちゃん家の近くの大きな病院。星空がよく見えて、ロマンティックでうっとりするその庭に、私はよく遊びに来ていた。
 そこで出会ったのがハチ君。当時は名前を知らなかったけど。
 色素が薄いのは生まれつきなのか、可愛くってお人形さんみたいだった。
 病室からパジャマで星空を見るハチ君は、身を乗り出して言った。
 そしてその日は、こっそり窓から抜け出したハチ君と、少し山の方を登った。