本当に毎週午後から私は肇さんの家にお邪魔した。
 今日もこたつに足を入れて、二人でプリンを食べている。
 肇さんは一人暮らしをしていた。テレビ、机、ベッド、緑のカーテン。たまに開け閉めするクローゼットから見える洋服がお洒落な物ばかり。

「冬になってしまったな」
「今年は寒いですね」
「だな。来年も寒いかもな」
「ですかね」

 私と肇さんはだんだん老夫婦のような心地よい会話が主流になった。無言もあるけれど、その間は二人だけの暖かい春のような空間でふわふわ飛んでいるような感覚が私は好き。

「玲衣」

 彼は机に頬を付けたまま私と視線を合わせた。

「はい」
「次は春だな」
「春が来ますね」
「春なんか来なければ良いのにな。このまま時が止まってほしい」

 彼の眼差しが寂しく見えた。洞穴に逃げ込んだ雪兎のように小動物が私の膝に丸まってくるような、弱々しい姿が見え隠れする。
 
「肇さん」
「でも服の上からだから、これは大丈夫な範囲だろ」
「……」
「嫌か?」
「嫌じゃありませんけど……」
「なら続行な」

 私の太ももには彼の顔が乗った。彼は躰を横にして、眼を閉じている。

「玲衣はこの世に残される人を考えた事あるか? 俺はあるんだよ」
「私は、言える立場でないとゆうか」
「枯れ花だ。水を出し切った花に肥料を与えようが、色褪せ萎れ最後は土に帰る。跡形を残さない終わり方は、可憐だった頃の面影を生きる人に刻み込む。同じ花を探し求める人にとってはドライフラワーにしない限り同じ花を手元に置けないんだ。花を人間に置き換えたら残酷だよな。俺は残酷な事をしている気がするんだ」
「どうして肇さんが残酷なのですか?」
「なんだかね、ふと我に返った時にそうなのかと」
「大丈夫ですよ。肇さんのそのままが良い人ですから」

 たまに彼は彼らしくない不安な言葉を口にする。
 最近それが多くなっている気がする。