お祭り後の神社は昨夜の余韻が残っていた。
 今日は一人じゃなくて良かった。
 彼は箒を持って懸命に塵を集めてくれている。顔を上げる度に手を振ってくれるが私は振りかえさず会釈で終えてみる。

 彼って……
 
 就寝前の天井に彼の顔が浮かんできた。
 今村肇さん。名前と友達二人、人混み苦手しか彼の事を知らない。 
 彼の成約情、質問は詮索に当てはまるから訊けない。昨夜のように私が苦手とする行動をしなければ、彼の情報が手に入らない。
 
 私から誘うのは……

 気が引ける。誘い文句すら思いつかないのに。
 そうこうする内にお供えもお掃除も終わった。

「今日はありがとうございました。良かったら飲んで下さい」

 炭酸飲料を渡した。

「俺の好きなやつ。何で知ってた?」
「ゴールの海に着いた時に大の字になって、炭酸を飲みたいと言っていたので」
「おー言ったわ! 玲衣は気が利きくな。ありがとう」
「じゃ、これで」
「もう帰る感じ?」
「はい」
「そっか。じゃな」

 彼の背を見送って。
 違うでしょ!
 私から行動しなきゃ。
 重い足を動かして、喉に力を託した。

「肇さん」
「どうした?」

 ペットボトルを口につけたままの彼が振り向いてくれた。

「ゆゆゆ、夕方もお願いできますか? 此処に集合です」

 彼の声を待つだけなのに心臓が外れそう。
 不安で堪らない。

「あいよ」

 ほっ、ほっとして良いのかな。どんと力んだ分だけの体力が膝に来てその場に崩れた。
 
 
 その夕方はすぐに来た。
 緊張してしまって昼ご飯の味が分からなかった。
 彼は箒を持つ。私も朝と同じ。これじゃ空色が変わっただけで何も変わらないよ。

「玲衣。今から海に行こっか?」
「今からですか? でも夜になりますよ」
「行こう」

 行きたくないわけではない。反対だった。誘われたのが嬉しくて、行きたいが素直に出てこなかった。
 家に連絡を入れて私は彼の背を追いかけた。

「夜道は危ないからさ、今だけ成約破りしない?」
「成約を破る?」

 空いた口が治らない。
 彼は有無を言わずに私の手を握った。

「もし落とし穴とかあったら危ないだろ。夜道だし」
「ありませんよ、そんなの」

 私もどうかしている。その手を握り返してしまっている。
 深く考えないようにしよう。きっと私だけだよね。慣れていないから。こうゆうの。

 海が近く感じた。
 静かな空気に音色を奏でるような波音が心地いい。はらはらする心臓に一定のリズムを刻み込んでくれるような気がする。

「俺、明日から会えないんだ。家の用があってさ。でも秋には帰ってくるから、玲衣待っててくれる?」

 そうなんだ。そっか。秋、長くいないんだ。肇さん。

「遠くへ行くんですか?」
「海外だよ」
「帰り待っていますね」
「……よかった……」

 良かった? 彼は小声で言った。その言い方が彼らしくない。なんだか胸騒ぎがした。