〈神楽坂大地side〉
「以上、新入生百六十名…」
入学式。
今日から僕は高校生になる。まだそんな自覚はないけれど。
抱負?抱負と聞かれても、現状維持だ。高校生になったからって何か新しい事をするわけでもなく、ただ、毎日登校して、勉強して、誰とも関わらずに帰る。それだけだ。行事だなんて冗談じゃない。絶対に参加したくない。いや、参加したとしても、絶対に影になる!
くそ長い入学式を終えて僕達は教室に行った。
「皆さん、初めまして。一年間担任を勤めます武蔵と言います。よろしくお願いします。」
担任はまだ若くて優しそうな人だった。正直、僕の領域まで入らなければどうでもいいが。
そして色々な説明があったが、ほとんど興味がなかった僕は聞き流していた。
「最後に…」
はあ、早く終わんないかな…早く帰ってゲームでもしたいな…
僕の席は窓側の一番端っこ。雲が流れてゆく空を見ながら僕はそう思った。
「今日はここまで!明日明後日は休みだから、次は月曜日に会おうね!」
やっとホームルームが終わった。
号令がかかり解散になると、僕は一直線に出口に向かい、駐輪場に行く。
自転車の鍵を解錠しながら何となく隣を見ると、同じように解錠しようとしている女の子がいた。
うちのクラスと同じだったような気はするが、忘れた。
ふと、目が合った。
「あっ…」
「あ…」
軽く会釈を交わして、女の子は自転車に乗って帰って行った。
それにしても、イヤホンしながらなんて危ないよなぁ…
そう思いつつ、僕も自転車に乗って帰途につく。
〈春原光莉side〉
「ふう…」
私は人がいない所で息を吐く。
初めての学校はとても緊張したが、まあ入学式だけだったので何とかなった。
にしても、改めて思うと、本当にみんな耳に何にもつけてないんだなぁ…
みんな新生活にうきうきわくわくしている様子だった。一人を除いて。
HR中ずっと、外を眺めていた男の子。名前は分からないけど、多分近くに住んでいる。駐輪場で会ったもん。
私は自転車を押しながら帰る。
すると、肩を叩かれた。
後ろを見ると、そこには幼なじみの姿があった。
“よっ。今帰り?”
“うん。颯太も今日入学式だった感じ?”
“正解。一緒に帰ろう。”
“うん。”
私は幼なじみである及川颯太と一緒に歩き始める。
“どうだった?”
そう聞かれて、私は一瞬「?」と思ったが、すぐに意図を理解した。
“今日は入学式とHRだけだったから特に何もなかったよ”
“本当か?”
“本当だってば。”
颯太は本当に心配性だ。私がこの高校に入学すると決めた時も過保護なぐらい心配していた。
その心配はありがたかったが、私は自分で決めた道を行きたかった。ただ、それだけの事だ。
“変な男がいたらすぐ言うんだぞ?俺がやっつけてやるからな!”
“やめてよ。殴ったりしたら絶交だからね!”
“おいおい…”
からかってなどいない。本心だし、本気だ。
男…か…
さっき駐輪場で会った男の子…生気がない目をしてたなぁ。
〈神楽坂大地side〉
平穏に過ごすと決めた僕の高校生活に早くも危機が訪れた。
「おーっす!大地!」
「なんだよ…」
僕はある人に執拗に絡まれていた。
岡田咲也。こいつは、僕と同じ中学出身だが、面識は全くない。
いや、全く知らなかった訳ではない。こいつは中学の時は非常にモテていた。だから、ぼっちの僕でも、名前ぐらいは耳に入っていた。
「岡田君。何で僕なんかに執拗に絡むの?」
「え?だって同じ中学出身だろ?」
「…え?それだけ?」
「うん。」
彼の目は曇りなき瞳をしていた。たったそれだけの理由で…
大体、自己紹介の時に出身中学もいわなきゃいけないのがおかしな話なんだ。それがなければ、今頃は一人でぼーっと出来たのに…
「何度言われても僕は岡田君なんかとは仲良くしないからね?」
「なんかとはなんだ!なんかとは!?せっかくクラスメートになったんだ!仲良くしようぜ!」
「君にはいっぱい友人がいるでしょ?そいつらと仲良くしたら?」
「俺には友達はいっぱいいる。でも、君という人間は一人だけだ!」
「はあ…」
こうやって話すだけでも非常に疲れる。
「ほら、もうすぐチャイム鳴るよ?」
「大丈夫!ギリギリまではいける!」
「はあ…」
彼は僕の席の隣だ。まあ、岡田と神楽坂だ。出席番号が隣り合わせだから仕方ない面もある。
と、その時、チャイムが鳴り出し、先生が教室に入って来たので、僕達は前を向いた。
「じゃあ、放課後な!」
まだいくか…さっさと帰りたい。
「じゃあ、この時間は委員会について決めたいと思います。」
はぁ…早く終われ…いや、終わったとしても、地獄の時間は終わらない…憂鬱だ…
「じゃあ、まず委員長」
「はい!俺やります!!!」
速攻で岡田が手を挙げた。
リーダーシップがあって、勉強、運動もできる、その上顔かたちが整ってる…
なるほど、どうりでモテる訳だ。
それを皮切り?に、ぞくぞくと委員会が決まっていく。興味はないけど。
「うーん…放送委員会、誰かやりたい人いないの?」
どうやら、放送委員会だけ決まらないらしい。
委員会は男女ペアでやるらしい。まあ、だからか、副委員長はやりたい女子がいっぱいいた。
「じゃあ、くじ引きね!」
この年になってくじかよ。まあ、それ以外何かあると言われても特にないんだが。
そして、僕は何も入らないつもりなので、くじ引きは拒否…と言いたい所だが、当然と言うべきか、強制参加させられた。
「紙におめでとうが書かれてたらその人が放送委員ね!」
男子も女子も決まってなかったから、ほぼみんなでやった。
さっさと引いて、帰ろう。そう思いながらくじを引き、すばやく中身を見る。
『おめでとう!』
…は?
「お!男子は大地でけってーい!」
最悪な事に岡田に見られてしまった。名乗らなければ逃れると一瞬思ったのだが。
最悪だ…
「女子は春原さんに決定しました!」
拍手が巻き起こり、「良かった」「選ばれなくてラッキー!」という声もちらほら聞こえた。
「今日決まった委員さんは早速放課後に集まりがあるから、ちゃんと行ってね!」
…は?か、え、れ、な、い、…
早く帰りたい時に限って…
「今日はここまで!明日からは通常授業が始まるから忘れ物しないように!」
そして号令で解散となった。
よし、サボろう。
僕は一直線に帰途につこうとした、が。
「神楽坂くん?委員会の場所はそっちじゃないよ?」
「え…」
女子に引き止められた。
「まだ入学したばっかりだもんね。場所分かんないよね。一緒に行こう。」
「へ?あ、うん…」
さすがに逃げきれないと観念し、僕は女の子の隣に並んで歩く。
そういえば、女子と話すなんて何年ぶりだろう…そう思うと、急に緊張してきた。
「…」
「…」
無言の時間が流れる。気まずい。
僕は女の子を観察する。さらさらな黒髪ストレート、つぶらな瞳、整った顔立ち…美人だなぁ…
そういえば、ずっとこの子の事を女の子って呼んでいたけど、名前なんだろう…
でも、聞いていいのか?クラスメートなのに名前も覚えられない奴と思われたりしないだろうか…いや、そもそも目立つつもりもないのにそう考えるのは…
「神楽坂くんは放送委員会やった事ある?」
「へっ!?」
いきなり女の子に話しかけられて、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。
「動揺し過ぎだよ…」
「ごめん…放送委員会はやった事ないかな…」
「私も、やった事ない。まあ、そもそも放送委員会自体なかったしね。」
「そうなの?」
「うん。」
まあ、放送委員会がない中学校もあるか。多分。
「早く帰りたいだろうけど、我慢して頑張ろうね。」
「うん…ん?何で僕がそう考えてるって分かったの?」
「だって、いつもつまらなさそうな外見つめてるじゃん。」
バレてた。
「別にそう考えるなとは言わないけど、先生の話はちゃんと聞かないとダメだよ?」
「すみません…」
もしや、僕が選ばれたのって、先生の話をちゃんと聞かないから罰が当たった?
「あ、着いたよ。」
「…へ?ここ?」
「うん。」
三年二組。着いた場所はそこだった。
「ちゃんと聞いてた?」
「聞いてませんでした。すみません。」
「まあ、そもそも終わってから一直線に帰ろうとしてたもんね。そりゃ、聞いてない訳だ。」
「誠に申し訳ございません…」
ど正論過ぎて僕は謝る事しかできなかった。
「さ、早く入ろう!」
「うん…」
僕達は教室に入った。まあ、一年三組とは違いはなかった。強いて言うなら、先輩方がいて、緊張感が漂ってる事かな…
「ここ座ろうよ。」
「え…」
提案された席は、教壇のすぐ目の前だった。目立ちたくない僕にとっては最悪の場所だった。
「も、もうちょっと後ろにしない?出来れば目立たない場所…」
「この辺の方が聞き取りやすいから…」
「…え?」
僕は耳を疑った。
「耳、聴こえづらいの?」
「聴こえづらいっていうより聴こえないと言った方がいいかな。」
「で、でも今こうやってちゃんと会話出来て…」
「それはこの補聴器のおかげだよ。」
女の子は自分の耳を見せた。
確かに何か付けてるとは思ってたが、それ補聴器だったのか…
「さ、早く座ろ!」
「じゃあ、君はここで、僕は後ろは?」
「女の子をこんな知らない人だらけの空間に一人放り込むの?」
「……」
なんとも言えなかった。
いや、そもそも、僕だってこんな知らない人だらけの空間なんか嫌だ。
それなら、この子の後ろに座った方がましなのかなぁ……
「分かりました…」
僕は諦めてこの子の隣に座った。
「ありがとう。」
「どういたしまして?」
「寝ないでね?」
「いや、寝てはないけど…」
「多分、君もう先生に目を付けられてるからね?」
「へ?まだ学校二日目なのに?」
「二日目だからだよ。みーんなちゃんと先生の話聞いてるのに、一人だけぼーっとしてるし。」
「僕、もうそんな噂になってる?」
「?」
「?」
何となく会話が微妙に噛み合わない。
と、その時。ガラッと音がして、誰かが入って来た。僕はその人物を見て血の気が引いた…ような気がする。なぜなら…その人は他でもない僕らの担任である武蔵先生だったからだ。
「まじ…?」
「ね?」
なるほど。担任だから一人一人よく見てるって事か。
「それでは委員会を始めましょう。」
委員長・副委員長の選出、放送委員会についての説明、放送当番について色々決めた。
幸い、僕達はまだ一年生なので、すぐにまわってくるとかはないようだった。ただ、七月頃からやるらしい。
僕は先ほどまでとは違って、しっかり先生の話を聞き、必要な時はメモをした。問題は、この女の子がしっかり理解しているかどうかだが…
一時間ほどで委員会は終わった。
「神楽坂くんも自転車で帰るでしょ?」
「え?何で知ってるの?」
「入学式の時にちらっと顔合わせたでしょ?覚えてない?」
そこでようやく僕は思い出した。
入学式の日の放課後、駐輪場で女の子を見た事を。
その子がこの子か…
「そうだね。」
「途中まで一緒に帰らない?」
「うん。」
今更逃れられるとも思ってないので、一緒に帰る事になった。
てか、女子と帰るなんて人生で初じゃないか?
そう考えたらまた緊張が戻ってしまった。
「あ、あのさ…」
「うん?」
僕は勇気を振り絞って女の子に話しかけた。
「ど、どれぐらい聞き取れるの?」
最優先事項でこれは確認しなくてはと思ったのだ。否が応でも一年は一緒になる訳だし。
「うーん…ざわざわしてる所は聞き取りづらいし、小さい声も聞き取りづらいんだよね。」
「僕の声は聞き取れるの?」
「うん。神楽坂くんの声さ、なんか聞き取れるんだよね。」
「へぇ…」
「私からも一つ聞いていい?」
「何でしょう?」
「私の名前分かる?」
痛い所を突かれた。
「えっと…ハルハラさんでしょ?」
僕は何とか記憶を絞り出して答える。
「まあ、いいかな?私は春原光莉。改めてよろしくね。」
「はい。」
これ以上変な事が起こりませんように…
〈春原光莉side〉
「ただいま。」
あの後、私は神楽坂くんと分かれて、家に帰った。
家には、誰もいなかった。お姉ちゃんは仕事だし、両親はいない。
私は私服に着替えて再び外に出た。
目的地はない。ただふらふらしたいだけだ。何にもしてない、いわゆる無の時間が好きだ。この時は誰とも関わらなくていいし……
別に人と関わるのが嫌いなわけではない。ただ、一人になりたい時とある。ただ、それだけだ。
神楽坂くん……先生の話を初日から聞かない、ある意味猛者。それに、意地でも誰とも関わりたくない、そんな意志が感じられる。彼は何でそんなにも他人を嫌うのだろうか……
「光莉?」
ふと、私の名前が聞こえたので、振り返る。
「お姉ちゃん。」
「おかえり、光莉。」
「お姉ちゃんこそ、お帰り。もう仕事終わったの?」
「うん。」
私の姉である愛梨。今は、訳あって二人で暮らしている。寂しくはない。
「今日の夕飯、何?」
「光莉の好きな、肉じゃが!」
「えー!やったー!」
「よし!早く帰ろう!」
「うん!あ、荷物持つよ。」
「ああ、ありがとう。」
私は姉と帰途についた。
〈神楽坂大地side〉
これ以上、何も起こりませんようにようにと願ってた僕だが、残念ながらピンチはまた訪れた。
あの委員会から数週間が経った現在。
あの後は、春原さんと仲良くなったかといえばそうではなくて、あんまり喋らないし、岡田は相変わらず話しかけてくるし……
そんなこんなで再び訪れたピンチとは……
「部……活?」
ある日の放課後、武蔵先生に呼び出された僕は部活について聞かれていた。
「そうよ?入部届けの提出、今日が締め切りだけど、神楽坂くんだけまだ出してないよね?」
「いや、僕は帰宅部なので。」
「……さては、ちゃんと聞いてないな?」
「へ?」
入学式前後の僕の態度については、既に指摘を頂いていた。むしろ、いじられているぐらいだ。
「この学校、部活は強制入部よ?」
「え……」
「そもそも、オープンスクールとか説明会とかでも話した気がするけど。」
「……」
どうやら、家の近くという理由だけでちゃんと調べていなかったのが仇になってしまったらしい。
「でも、やりたいと思えるような事はないですし……」
これが前日とかならまだ考えようはあったのだが……
「まあ、そうだと思った。じゃあ、文学部はどう?」
「文学部?本とか読んだり書いたりするあれ?ですか?」
「一般的にはそうね。ただ、うちの文学部もそんな感じの説明があるけど、実質帰宅部みたいなものよ。」
「え!」
帰宅部という言葉に僕はとびついた。
「部室はあるし、文化祭ではちょっとした展示とかもあるけど、ちゃんとやっている人は二~三割ぐらいで、後はほぼ幽霊部員みたいなものよ。」
「僕、文学幽霊部員になります。」
「その言い方、腹が立つね。とりあえず、入部届け、書け。」
「はい。」
ぼくはファイルの中からなんとか入部届けを探し出して書いた。
「よし。おめでとう。これで君も文学部員だ。じゃあ、早速案内するね。」
「……え?」
「あ、言ってなかったけど、顧問は私だからね。」
「はいぃぃぃぃ!?」
僕は多分今日一の声を出してしまった。
「ま、まさか、全部嘘だったり……」
「嘘じゃないわよ。ただ、顧問については話してなかっただけ。」
「は、はあ……」
本当だろうか。まあ、嘘にしても、結構出来てるけど……
「ここが我が部室よ。」
そこは、普段誰も立ち寄らないような、秘密基地に似た教室だった。
「ここは、文学部以外誰も使ってないの。だから、ここが居心地良くて入り浸る為に入っている人もいる。」
「へぇ……」
「部員は二十人ぐらいはいるけど、その内の十人がこの部室に来てるけど、実質文学部らしい活動をしている人は三人ぐらいかな。」
まさに僕にピッタリの部活だった。むしろ、これを部活と呼んでいいのか疑問が湧くぐらいだった。
「さあ、どうぞ。」
「失礼します。」
僕は中に入った。
確かに、人が少なくて、しかも寝ていたり、スマホをいじっていたり、そんな人が多い感じだ。
僕はその中に知っている顔を見かけた。
「春原さん?」
「ん?あ、神楽坂くん!」
春原さんは本を読んでいて、僕が呼ぶと、すぐに顔を上げた。
「神楽坂くんも文学部に入部?」
「うん。」
「やっぱりね。」
「え?」
「神楽坂くんの性格からして、ここに入るんじゃないかって武蔵先生と話してたんだよ。」
「うんうん。」
知らない所で僕の話をされていたのか…
「ようこそ!」
「!」
いきなり僕の後ろから話しかけられて、思わずびっくりした。
「須藤さん。そんな大声、このうさぎくんはびっくりしちゃうよ。」
「う、うさぎくん?」
「神楽坂くんのあだ名。」
知らぬ間にあだ名までついていた。
「いきなりごめんね。改めて、ようこそ文学部へ!」
「……」
この人、武蔵先生にそっくりだ。
「私は部長の須藤莉子だよ。よろしく。」
「あっ……」
握手を求められ、思わず僕は握り返した。
「一年一組の神楽坂大地です。」
「一組って事は、光莉ちゃんと同じクラス?」
「はい。」
「しかも、委員会も同じなんですよ。」
「へぇー。」
その部長?須藤先輩?はそう聞くなり、ニヤニヤし出した。
「あ、あの、言っておきますけど、そんな関係じゃないですからね!」
「もう、何も言ってないのに。」
「いや、その表情が全てを言ってるのよ。」
「あ、そうですか?」
この雰囲気……僕は苦手だ。
「改めて、この文学部では、色んな事やってるよ。」
「ほぼ帰宅部状態では?」
「ちゃんとやってる人だっているからね。君がどっちにはまるのかは分からないけど、内容としては、本を読んだり、感想を言い合ったり、人によっては物語作ったりね。」
「へぇ……」
「まあ、これからよろしくね。」
「は、はい……」
これからの高校生生活、どうなるんだろう……
〈春原光莉side〉
神楽坂くんが文学部に入部してから数日が経った。
幽霊部員になるだろうと予想していた私達の予想に反して、彼は以外に部室に顔を出していた。
さすがに毎日ではなかったが、それでもよく来てる方だ。
その日も彼は来ていて、珍しく私と神楽坂くんの二人だけだった。
「部長さんは?」
「風邪で休みだって。」
「あの部長さんが?」
「ね。全然風邪ひかなそうな、むしろ運動部に入っていてもおかしくないのにね。」
「うん……」
神楽坂くんとは、割と話すことが多くなったような気がする。といっても、教室で話すことはほとんどない。
「武蔵先生は?」
「会議だって。」
「ふーん……」
会話が長く続く事もないけど。
「今日も岡田くんはしつこかったね。」
「ああ……」
学級委員長の岡田咲也くん。明るい性格で、いわゆる陽キャ。誰とも仲良くしたいようで、神楽坂くんにも話しかけているし、私にも結構しつこい。
「君はまだましな方でしょ。僕なんか同じ中学出身だからって、しつこいんだよ。」
「ご愁傷さまで。」
神楽坂くんはいつも本を読んでるか、ただボーッと空を眺めてるかしている。
でも、なんだかんだで岡田くんには相手してるし、文学部も無理やりとはいえ入部してくれたし、本当は優しいのだと思う。
なんなら、本当はもっと人と関わりたいのでは……と思う瞬間さえある。