私は、運が悪かった。
 生まれた時から、私は神様に捧げられる運命だった。
 しょうがないの。私が神様の元へ行かなければ、みんな不幸になる。

 ある日ね、私、逃げちゃったの。怖くて怖くて、必死に走った。死にたくなくて、走ったの。そしたら、仲良しの男の子に会った。
 この人なら大丈夫。私を誰よりも大切に思ってくれている人だもの。私が、いつかお嫁にもらってくれる?って聞いたら、もちろんって言ってくれた人だもの。
 私、言ったの。『助けて』って。

 そしたらあなたは私を殴った。痛かったよ。
 そこで気づいたの。あなたは私をただ閉じ込めたいだけだった。恨まれたくないだけだった。
 目の前が真っ暗になった。

 そしてこの日が来た。
 いつもとは違ってみんな優しかったの。綺麗な服を着て、お化粧をして。少しだけ、嬉しかったな。鏡を見て、何度も口紅を確認しちゃったの。
 お神輿に乗せられて、揺られながら入り口を目指したの。
 本当は死にたくなくて、生きていたくて、私ね、泣いちゃったの。
 そしたらみんな、化粧が崩れるから泣くなって言うの。ちょっとひどいと思わない?みんな、自分は死なないから言えるのよ。

 辿り着いたのは、ごうごうと流れる大きな川だった。
 橋の淵に立たされて、飛び降りなさいと言われたわ。もちろんためらった。
 私ね、お嫁さんになりたかったの。それで、子供は男の子と女の子。家族みんなで楽しく暮らすのが夢だった。でも、現実は非情ね。それすら奪ってしまう。

 太陽に手を伸ばすけど、届かない。仕方なく右足を宙に放り出したわ。
 足に風を感じて、心臓が撫でられているような気持ちになった。
 お嫁さんになることが無理なら、これはどうかしら。
 『みんな、私と同じ目に遭いますように。』

 素敵な夢だと私は思う。
 周りの女の子は、『おそろい』を好んでいたから、私も真似してみたの。
 それだけをただ純粋に願って、左足にゆっくりと力を込める。

 どうか、私の願いが叶いますように。
 プツンと私の命は途切れた。

 みんな楽しそうに笑ってる。あーあ。消えちゃえばいいのに。
 みんな、水で満たされちゃえばいいのよ。
 非難されながら苦しめばいいのよ。
 
 私の体が塵となって消えちゃった。
 この願いも叶えてくれないの?
 それならもういいわ。
 あの世で神様を討ってあげる。

 どうしても、生きたかったのよね。