……。

この社会はののかが言うほど甘くない。
私の方がそれを知っていた。

ののかが言ってるのは夢物語だ。

やなことから逃げて、好きなことやって、飽きたら死のう。だって苦しいんだもん。みたいな、子供のわがままだ。まかり通るはずがない。
二人で生きようにも、それぞれ家庭や学校があるし、人生はある程度のレールを敷かれている。

そりゃ、ここが日本じゃなければできたかもしれないけど、多分、そんな生活無理に近しい。

でも……。
ののかが私のことを必要としているのは伝わった。ののかが生きるのに私が必要なことが。

誰かに必要とされたことなんてなかったから、変な感覚。

私もののかが大切なのは事実だ。
私には何もなかった。本当に。
死んだ目は何も映さなくて、音も上手く拾わなくて。
そんな時、現れてくれた同じようで全く違う少女。
私が声をかけて、私が……。
私から行動した、初めての相手。

だから、ののかを大切にしたい。

死んだら全て無くすくらいなら……、

ののかを無くすくらいなら。

私だって死にたいわけじゃない。
幸せに生きれるなら生きたい。
私が生きることで、ののかを少しでも救えるなら。

私にも希望があるなら。

死ぬ以外で救われる道があるなら。

信じても、いいのかな?…………。


……。


陥落して私は泣き始めた。しゃがみこんで、何度もしゃくり上げる。

「うぅうぅああああああ」

ずっと泣けなかった。ようやく泣けた。私は、私は、死にたくなんかない。

生きていたい。


ののかと生きたい。


……ああ、やっぱり私も夢見がちなんだなあ。

実現できなくてもいいよ。

それでも、大人を笑い飛ばしながら、

ずっと、逃避行をしていたいね。』×××

紫亜は陥落して泣き始めた。ようやく、紫亜の本音が見えた。
紫亜だって、本当は、死にたいわけじゃなかったんだ。死ぬしか知らなかっただけ。
生きれるなら、生きたい。
生きて幸せになれるなら、なりたい。
誰だってそうだ。

「それにさ、死にたいって結局生きたいってことでしょ?人間、本能には逆らえないみたいだし」

そんな私の言葉に紫亜は泣きながら笑った。

「ののからしいね」

「そこで何してるんだ!」

後ろから声が響く。まずい、警備員だ。私たちは急いでフェンスを上り、内側へ戻る。

「……何してたんだ」

警備員が私たちを問いつめる。私たちは返答に困ったけど、もういいやと思って私は答えた。

「生きようと、決めました」

もういいかなって思うまでは、それでいい。
すると、自殺未遂だと気づいた警備員が焦りながら、

「まだ若いんだ、早まるもんじゃない、ほら中に入れ」

と言う。私たちは話を聞いてもらうことにした。

もし、このまま家に戻ったら、紫亜は殺されてしまうんじゃないかとすら思う。大丈夫なのだろうか。

心配そうな私を見て、その後まっすぐ紫亜は言った。

「警察に連絡してもらえますか」

紫亜の決意を感じた。

それからは早かった。
紫亜は警察に行って事情を話し、私の親は、私を個人的に探してくれていたらしく、呼ばれたらすぐに来てくれた。

死にたかった、なんて話したら涙ながらに死なないでくれ、と言われた。

大切な一人娘だと。

なんだ、見放されてなんか、なかったんだ。

私は知った。

愛されていたということを。

お父さんも抱きしめてくれた。
二人とも号泣していて、そんな姿は初めて見た。

「生きてて良かった」

その言葉に、私は本当に、心から幸せを感じた。

紫亜の親は警察に逮捕され、いじめが明るみになった学校は、ニュースになった。

そして紫亜も私もカウンセリングを受けることになった。

ちょっとめんどくさいと思った。