私は思い切り叫んだ。そうだ。このまま死んだら、この感情も、想いも全部消えてしまう。幸せになんかなれるわけない。私は、紫亜を想っている。だからこそ、今死ぬわけにはいかないし、紫亜を死なせるわけにはいかない。

「間違ってる…?何言ってるの?」

心底分からない、という紫亜の声に私は

「私はこの旅で気付いた、大切な何かがあるのが大事なんだって。私は、紫亜が大切になった。死んだら、全部なくなっちゃう。紫亜と過ごした時間もこれからも」

それから一呼吸置いて、

「ねぇ、紫亜、紫亜は私が大切……?」

「……大切だよ」

「良かった、じゃあ」

私は何とか紫亜を丸め込もうとした。でも

「大切だから……だからののかと終わりたいの」

上手くいかない。
紫亜は、どうしても死の救いを求めている。私の言葉じゃダメなのかもしれない。

でも、ここで諦めたら紫亜を失ってしまう。
私は何を言ったらいいか必死に考えた。でも、単純な、生きて欲しいしか思い浮かばない。

「ののかだって死にたいんじゃなかったの?」

「……私は」

言葉につまる。
そうだ。ずっと、死にたいくらい苦しかった。どうしようも無い気持ちをどうにかしたくて、死にたいって言葉に縋ってきた。
でも死ぬ勇気はなくて、自分を傷つけることもできなくて、
そんな自分が嫌いで、
全てに絶望しても尚揺らいで、死ねない。
死にたいのに、死にたくない。
苦しいから逃げ出したいのに、逃げ出せる場所がない。
宙ぶらりん。
そんな状態。
それはただ、苦しいだけだ。
できることなら終わらせてしまいたい。
でも、私にはそれができないのだ。
それは、未練があるからもあるし……。

ー紫亜と出会ってしまったから。

「私は、ののかと死にたいの!」

紫亜が叫ぶ。

「私は、紫亜と生きたいの!」

私も叫んだ。

「あはは、私たち、わかりあえてなんかなかったんだね」

紫亜が乾いた声で言う。

「ずっと、ずっと、死にたくないのに、私と一緒にいたんだ、裏切ってたんだ」

「違う!私だって死にたいよ、でも、死ねないの!」

「怖いからでしょ」

ぴしゃりと紫亜は言う。

「……たしかに、それもある。でも」

私は紫亜の手を握る。

「紫亜と、生きていたいと思ったから」

本音だ。紫亜がいれば、私は楽しい日々を送れると思った。私の日々が例えまたあの辛い生活に戻ったとしても。
紫亜は私を見つめる。そして笑った。

「バカみたい、私達は死にたいから出会ったのに、一緒に生きたいなんて」

「……うん、そうだね」