ービルの屋上。私達はこっそりと階段を上がり、辿り着いた。
防犯システムの緩いビルで良かった。監視カメラには映っちゃってると思うけど。

「いよいよだね」
紫亜が嬉しそうに話す。
「…………」

私は何も言えなくなっていた。紫亜は、本気で死ぬ気だ。紫亜は我先にと屋上のフェンスを乗り越え、下が見える場所まで行く。私はまだフェンスの向こう側だった。
「ののか、早く」
紫亜が急かす。私は、フェンスを乗り越えようとする。体が震える。この先に行けば、一歩間違えば死ぬのだ。
「ののか、どうしたの?」
紫亜が心配そうに聞いてくる。ねぇ、紫亜、本当にこれでいいと思ってるの?そう聞きたいのに口が動かない。
私はフェンスを乗り越え、紫亜のいる場所に行く。紫亜は、
「ようやく、二人で幸せになれるね」
と冗談めかして言う。それから、私の顔を覗き込み
「ああ、心中じゃないんだったね」
と笑いながら言う。
「長かったね〜〜、海行ってから、色んな場所行ったね。やっと、死ねる」
晴れ晴れとした顔。
「じゃあ、三二一、で飛ぼう?怖かったら、手を繋ぐ?」
手を差し出す紫亜。
私は握れなかった。

私は決心した。紫亜は絶対、死なすべきじゃない。私が、死なせたくない。
私のわがままかもしれないけど、伝えなくちゃいけない。

「ののか……?」

不思議そうな紫亜の声。

「ほら、行こ?」

紫亜がもう一度手を伸ばす。
私はその手をパチンと弾く。
私は叫んだ。

「違う!」

驚いた顔の紫亜に続ける。

「ねぇ、紫亜、違うよ、こんなの間違ってる!」

「何、今更」

「このまま死ぬなんて、絶対間違ってるよ……!」