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電車が着く。その場所は、私たちの住む街から少し離れた街。ビルが立ち並んでいる。夕焼けが夜の色と混じって変な色の空。
スマホには着信が沢山来ていたが、スルーして電源を切った。きっと、紫亜にもたくさんきていたはすだが、そんな素振りは見せない。

空は暗くなり始めているが、明るい街。人もたくさんいる。若者もたくさんいて、全然浮いていない。さすが、東京。

「明日の仕事が〜」
「お兄さん、ちょっとお店きませんかあ」

騒がしくガヤガヤしている。

「さて、心の準備はできましたか〜?」

ツアーガイドのような真似をしながら紫亜が笑う。とても楽しそうに。まるで、ジェットコースターに乗る前のような感じで。
はたまたバンジージャンプか。
できているわけがない。そんなものできていたら、こんなに考えていない。苦しくない。

死にたい感情は嘘では無い。
でも最初から、私に死ぬ勇気なんてなかった。
それはずっと言えないままだった。
だから、本気で無邪気な笑顔を見ていると、なんだからしんどくなってしまう。

「……」

私は下を向いた。

「ののか?」

近付いてくる死。
怖いような怖くないような。
でも、受け入れることはできなかった。
紫亜は私に手を伸ばす。
瞬間、少し迷った。

突き放すことも出来た。

でも私は紫亜の手をとった。
紫亜の手は震えていない。
私は気持ちがまとまらないまま、紫亜について歩き始める。
入れそうなビルを探した。

その間も私はずっと考えていた。

「あそこいいんじゃない?」

見つけたのは、今日は休みで使われていなさそうなビル。自動ドアはちゃんと開き、階段も使えそうだった。

「よっし、おっけー!」
紫亜が嬉しそうに言う。
「声が大きいよ」

私の心臓はバクバクしていた。