私にとって死ぬっていうのは、救いだと思っている。
私の毎日は、苦しい意味の無い繰り返しだった。
正しくなくちゃダメで、その為には我慢して壊れても壊れてないふりをしないといけない。
生きるってそういうことだと思っていた。みんなそうやって生きてるはずだ。
違うなら、なぜ私だけがこんな思いをしているのかわからない。
苦しい……。
そんなことをネットに書いて、小説にして発散して。
それでもダメな時は『死にたい』って言葉に縋った。死んでしまえば、全部無くしてしまえる。無かったことになる。だって、意識が消えちゃえば、残るものも何も無い。私はもとからいなかったのだ。

そうするべきだと分かっている。
私の人生にもう、希望なんてない。
それは私が1番理解していた。

それができる人が羨ましかった。
先を越した人たちが妬ましかった。

でも、私は怖くて出来なかった。
自分を傷つけることもできなかった。

でも、今は紫亜がぶち壊してくれた。

私の苦しい日々を、変えてくれた。手を差し伸べてくれた。その先が例え死に向かっていようと、私を変えてくれたのは事実だ。

電車に揺られながら、私はまた小説を書いていた。

「なーに書いてるの?」

紫亜が私のスマホを覗き込む。

「小説だよ」

「小説?!ののか、小説書けるの?すごい、読みたいな〜」

「書けるって程じゃないけど…」

……これは遺書のようなものだ。いつもの小説とは違う。私という人間が1人の少女と旅をする小説。
それは、今起きていることそのまんまだ。
私たちの旅の記録を記したものだから。
だから、紫亜に読まれると恥ずかしい。私の今の気持ちが書いてある。…紫亜のことを大切に思っているのも分かってしまうし、この旅が楽しいことも、死ぬ勇気がまだないことも…。

『私は、横にいる少女とーー』

でも、ちょっと読んで欲しさもある。

口では伝わらない私の感情が伝わるなら。

今までのも含め、紫亜にはいつか読んで欲しいな。
ぽちぽちとスマホに文字を打つ私に、

「私、趣味ないからなあ」

と、紫亜は寂しげに笑った。

「いいね、ののかには趣味があって」

……。それは、わからない。趣味があるからって満たされるわけじゃない。紫亜にもきっとわかるでしょ?Twitterでいくらみんなが大丈夫?とか死なないでって言ってくれても、全然心が癒えないのと一緒で。生きるためには、何か苦しみを忘れさせてくれるものが必要で、それが私にとっては小説だった。それだけだ。

もしかして、紫亜にはそれが無いんだろうか。

それはつまり。

「紫亜は真っ向から苦しみと向き合ってきたんだね」

私がそう言うと、紫亜は少し目を見開いた。

「ただ、趣味がないだけだよ」

紫亜はそう言って、目を伏せて笑った。