目を覚ますと、バス停に着いていた。隣を見ると、紫亜も眠っていた。起こして海まで歩く。すると、夕焼けを飲み込むような赤い海が広がっていた。

「わあ……」

「綺麗……」

夕焼けの海を見たのは初めてだ。今まで見たどの風景よりも綺麗だった。それは、こんな状況だからなのかもしれないけど。
私たちも黒い影と化してひとつの絵になるような。そんな瞬間。

「ここで死にたいな」

と紫亜が言う。

「……溺死は嫌だよ」

と私が言う。でも、ちょっと私でも、ここで死ぬのはいいかもなんて思ってしまう。そんな景色だった。

「で、どこ行くの?」

「……ビルかな〜」

なんて紫亜が言った時だった。

「ああ、二人とも、まだいたのかい」

振り返ると、あのおばちゃんが立っていた。

「もし良かったら、お店閉めたから中でご飯食べていくかい?」

私たちは顔を見合わせた。

×××

私たちはおばちゃんにごちそうになることにした。海の家の中のテーブルに座る。

「今日は優しい若者に会えて、とっても良い日だったよ」

おばちゃんはそう言いながら、カレーを出してくれた。海鮮の入ったカレーで、私はめずらしそうにしていると、

「君たち、帰らなくて親御さん心配しないのかい?」

とおばちゃんに聞かれた。その言葉に、紫亜が下を向いてしまう。紫亜の両親は今、紫亜が学校に行ってないことを知っているのか知らないのか。知っていたら、大変なことになっているに違いない。私の場合もそうだけど……。変に誘拐とか騒いでないといいけど。

「大丈夫です、今日は言ってありますから」

私がそう取り繕うと、

「ならいいんだけどねぇ、暗くなると危ないから、食べたらちゃんと帰るんだよ」

とおばちゃんは言った。その優しさが苦しかった。おばちゃんはそんなことは露知らず、こんなことを言い出した。

「二人は恋人同士だったりするのかい?」

「え?」
「へ?」

私たちはまた顔を見合せた。そして、笑い始めた。私たちが恋人同士?!女の子同士だし、今日会ったばかりなのに。そう見えるのだろうか。

「違いますよ」

「ありゃ、違ったかい、私の勘は当たるんだけどねぇ、駆け落ちかと思ったよ。まあ、中学生かあ」

とおばちゃんは笑う。駆け落ち……。まあ似たようなものだ。でも、それでいうなら一番しっくりくるのは心中だろう。私は認めないけど!

「でもまあ、ののかとはそれくらい仲良くなれたらなあって思ってるよ」

「……!私もだよ。紫亜のこと、もっと知りたいもん」

お互い本音だった。これから死のうとしているのに、こんなことを思うなんて変だ。でも、私たちはお互いに特別な存在だった。
カレーを食べ終わり、
「ごちそうさまでした、ありがとうこざいました」
とおばちゃんにお礼を言うと、
「また二人で遊びにおいで。ゴミ拾いも手伝ってね」
とにこやかに見送ってくれた。

「行こっか……。電車乗るよ」
「うん」

私たちは、自然と手を繋いでいた。
別に、意識し始めたとかではない。
けど、確かに絆を感じていた。