「ののかはさあ、なんで死にたいの?」

「……え?」

「ののか、死にたいから海行くのおっけーしてくれたんでしょ?」

見抜かれている。そうだ。もうどうなっても良かったから、私は海に行く約束をした。例え、紫亜が悪い人でももう構わなかったのだ。なんで。なんでと言われても。

「……漠然と、もう全部がどうでもいいから」

「私と同じだね!」

紫亜は明るく笑う。

「私もね、全部がどうでもいいんだ。もう、思い残したことないから、だから、最後に綺麗な場所見たいな〜って」

「…そこに私いていいの?」

「ののかは私と一緒でしょ?」

紫亜は無邪気に言う。

紫亜は、家で虐待され、学校でもいじめられ、本当に居場所がなかった。生きることをどこでも否定され、死が一番の救いだった。
それに比べて私は何もない。何かをされたことなど、何も。何もないから、死に救いを求めている。
本当に、私なんかで良かったのだろうか。
それを言うと、紫亜は、
「何かがないと死にたくなっちゃダメなんてそんなわけない」
と言った。
その言葉に涙が出た。
紫亜は、とてもいい子だ。己が置かれていた劣悪な環境を恨んだりしていない。ただ、受け入れて前に進もうと…自らの手で終わらせようとしているだけだ。
電車に乗る時間は長い。私たちは色んな話をした。紫亜の話は、共感できるものばかりだった。死ぬことで、罪から解放される。それが幸せだということ。でも、そのために今まで生きてきた全て、さらには今とその先を失くしてしまうことに恐怖があること。その中で、

「私、ののかみたいな人と初めて会ったよ」

と紫亜が笑うものだから、なんだか嬉しくなってしまう。私だって、こんな気持ちを共有できる人と会ったのは初めてだ。
だから、友達になりたいと思った。

紫亜の気持ちをちゃんと理解していなかったから、私は勘違いをしていたみたいだ。


窓の景色が、見た事もないところまで来た時、紫亜は言った。