電車に揺られながら、私は小説を書いていた。
この旅を記録するため。

天使ちゃん。彼女の本名は天塚 紫亜。隣で眠っている。
黒髪のセミロングで、真っ黒のセーラー服を着ている。スカートから覗く細い足には、殴られた後のような痣があり、痛々しい。

紫亜は、「これ目立つよね〜やっぱ。バンソーコー貼ってくればよかったあ」なんて言って笑ったけど、私は笑えなかった。

虐待、されているのか。私は、そんな人に今まで会った事がなかったからいたたまれない気持ちになった。自分じゃどうしようもできない苦しい境遇。
逃げたくなるのも当然だと思う。私にその苦しみは計り知れない。

「痛い?」

「痛くないよ〜、もう慣れたし。最近は痣にはならないから」

私が最初に思ったのは、可哀想という言葉。でもすぐに違うと思った。可哀想ってよく知らない他人の私が思うのは違う。
……本人が望んでもいないのに、現状を憐れむのは勝手だ。
そうしてしまったら、私も、ニュースを見ているだけの傍観者だ。
現に彼女はここにいるんだし、笑っている。
…紫亜の気持ちは、紫亜にしか分からない。

「気持ち悪かったらごめんね、結構酷いからさ」

隠そうとする紫亜に

「気にしないよ」

と私は言った。すると、紫亜は少し嬉しそうに笑った。

がたんがたたん、電車が揺れる。