大したことないね、って言いたかったのに、言葉が出てこない。
 オレは空から目を離して、地面を見た。


「お、オレを狙ってる奴らがいるんだろ。さっさと行くぞ!」


 感動と、コウメイに心を許してしまったことを、隠すようにそう言って、オレは真っ直ぐ前に進んだ。

 これからの未来に、少しだけ。ほんの少しだけ、希望が持てる。
 父ちゃんとの再会は、果たせなかったけど……オレは、閉じ込められて生きていかなくていいんだ。

 この空の下で、生きていっていいんだ。


「ふっ……家はそっちじゃない。こっちだ」


 笑った後の、コウメイの真面目な声に振り向く。
 オレを見下ろしているコウメイは、親指を肩の後ろに向けていた。

 顔がカァッと熱くなる。


「早く言えっ!」


 気に食わない。あぁ、気に食わない!
 コウメイが父ちゃんに拾われたって話だってまだ信じてないし!

 こんな突然現れた奴を簡単に信用なんか、してないっ!
 絶対絶対してないからなっ!

 オレはコウメイの方へ早足で戻って、ニヤニヤしながら伸ばしてくる手を避けた。


「そこにいるのは誰だ!」

「!」


 施設の方から聞こえてきた鋭い声に、オレはコウメイの傍へと身を寄せる。
 ダンッダンッとすぐ近くで銃声がした。


「行くぞっ」

「あぁっ!」


 オレはコウメイから離れず、一緒に走って逃げた。
 父ちゃんがこの10年で用意したという、新しい家まで、時に隠れ、時に車を使いながら。

 その間にコウメイへ信頼の気持ちを抱くのは、難しくないことだった。




****


 今では、父ちゃんが残したオレを助ける為の“準備”が、オレを青空の下で生かす土台となってくれている。

 何よりも一番、オレに新しい人生を送らせる労力を賭してくれたのは……そして、新しい人生をずっと傍で守ってくれているのは。
 突然現れた、ショットガンを構えた美女男だ。

 気に食わない兄貴と、オレは今日も、綺麗な空の下で元気に生きている。



[終]