「見えてはいるようだが、こんなの邪魔だろ。その腕輪も外してやる」


 パサッと、呆気なく目隠しが外された。
 目を丸くしてる間に、腕にぴったりと嵌まった腕輪も、ブチッと、湿らせた紙をちぎるように、引きちぎられる。

 おいおい、金属製だぞ。


「ゴリラかよ……」

「ハッ、マモルと同じ反応だな」


 床に落とされた腕輪は、目隠しに迫ると、ビョンと飛んで離れた。
 あれらには反発し合う磁石が混じってるから、当然だ。

 オレはドクドクと音を立てる鼓動を聞きながら、コウメイを見上げて銀色の瞳を見つめた。


「“答えろ!” お前は、オレの味方か?」

「……嘘を吐く気はないが、“絶対的命令(オーダー)”を使っても無駄だぞ。あの弱体薬を飲んだんだろ? 強制力がなくなってる」


 コウメイが指さしたのは、薬棚の隣の冷蔵庫。

 弱体薬……? あの激マズ汁が!?


「安心しろ。ミクに危害を加える気はない。マモルの最期の頼みだ」

「さいご……!?」


 どういうことだ、とコウメイを睨むと、黒い手袋に包まれた手が頭に伸ばされる。
 咄嗟に腕をクロスして頭を守ってはみたが、あっさりと突破されて、クシャクシャッと頭を撫でられた。

 こんな風に触れられるの、何年振りだ……?


「そろそろこっちにも人が来る。歩きながら話そう。俺から離れるなよ」

「はぁ……?」


 コウメイの口調が父ちゃんと似てるからか、さっき撫でられた手が温かかったからか。
 いささか警戒を解かれて、部屋を出て行こうとするコウメイに、オレは素直に付いて行った。

 オレの特殊能力……目が合った相手へ、強制的に命令を聞かせる絶対的命令(オーダー)の研究をする為に、実験室に移動することもままある。
 そんな時に、当然だがよく通るのが廊下だ。

 空が投影されてる部屋とは違って、天井も、壁も床も真っ白なここは、しばらく綺麗なものだったが……。


「ひっ……な、なんだこれ……!?」


 オレの部屋から離れるにつれ、壁や床にめり込んだ弾痕や、血を流して倒れる職員の姿が増えていった。


「TNDHは知ってるか? 特殊能力保持者を嫌って、その排除を目的とする過激派集団だ」

「し、知らねーよ、そんなもん……!」

「まぁ、いるんだ、そんな奴らが。そのTNDHが今日、ここを襲撃したんだよ」

「はぁ……!? な、何が目的で……っ」

「言っただろ。特殊能力保持者……つまり、ミクの排除だ」

「!」


 オレの命を狙ってる連中が……?

 ここの職員に好き勝手体を弄られるだけでもいけ好かねーってのに、そんなのまでいるなんて、オレが何をしたってんだ!?

 ただ変な力を持って生まれただけじゃねーか……! オレだって欲しくなかったのに!


「こんな話を聞いて怯えるとこは、普通の女の子だな」


 先を歩いていたコウメイが振り返って、表情を和らげるように笑う。
 また頭に伸びてきた手を、今度はギュッと目を瞑って首を竦めながら迎えた。