「~~!」


 ギュッと目を瞑って顔を逸らすオレの耳に届いたのは、パキッという音。
 それから、コツコツと足音がした。


「ふぅん……殺風景な部屋だな。これは……栄養剤か?」


 ハスキーな声は武装した輩がいるとは思えないほど、呑気なもの。
 オレは恐る恐る片目を開けて、枕を少し退かした。

 そこにいたのは、ショットガンを持ったさっきの美女だ。
 薬棚の1段目から筒を取り出して眺めている。

 な、なんなんだ、あいつ……!?


「こっちは……弱体薬だな」


 今度は冷蔵庫を漁って眉を顰めていた。
 オレはやつの意識がこっちに向いてないのをいいことに、ジリジリと動いて、部屋の出口を目指す。


「勝手に動くな。1人で出たら死ぬぞ」

「はっ!?」


 片手で持ったショットガンを、適当にこっちへ向ける。
 遅れて視線を向けてきたそいつに、体が震えた。
 オレを殺そうとしてるのはお前だろ!

 頭に浮かんだ言葉は、カラカラに乾いた喉からは出てこなかった。


「ん……空を投影してるのか。ハッ、ここの空は子供騙しだな」

「んなっ!?」


 不意に天井を見上げたそいつの言葉を聞いて、顔がカァッと熱くなる。

 カチンときた。オレが10年間見てきた空だぞ!
 そりゃAIが描いた絵だけど、本物の空とだって大差ないだろ!

 文句を言ってやろうと拳を握ると、天井を見ていた女はオレを見て、右の口角を吊り上げる。


「ミク。本物の空を見せてやる」

「!! お前……っ、なんで、オレの名前を……」

「“オレ”? 随分男勝りだな。マモルから聞いてた話だと、か弱いお姫様を想像したもんだが」


 クックッと笑うそいつの口から飛び出したのは、父ちゃんの名前だ。

 こいつ、一体何者なんだ……!?


「男勝りは、お互い様だろっ……お前、一体何者だ!?」


 経験がないなりに、拳を握って体の前で構えると、女はショットガンを肩に担いだ。
 キリッと目尻が吊り上がった銀色の目が、笑みを湛えてオレを見つめる。


「コウメイ。マモルからミクを守るように頼まれた……そうだな、お前の兄貴ってところか?」

「は……?」


 兄、貴……?

 オレには兄弟なんていないし、そもそもこいつ、こんな見た目してて野郎なのか!?


「ま、驚くのも無理はない。俺がマモルに拾われたのは、ミクがここに連れてこられた後だからな。さて……」


 コウメイはショットガンを下ろして、こっちに……って言うより、廊下に向かっていく。
 その足元に、親指ほどの小さな物体が転がっていることに気付いた。

 くの字に曲がってるけど、あれ……あいつが最初耳に付けてたやつか?

 ぽっかりと口を開けた出口から顔を出して、左右を確認したコウメイは、オレに近づいてくる。