パチッと目を開ける。
サングラス越しに世界を見ているように、脇の白い壁が灰色がかっていた。
まぁ実際、黒い布だか、金属繊維だかに覆われた目で物を見ているんだけど。
天井がある場所には、投影された人工の空がある。
AIに描かせたアニメーションだとか、なんとか。
今日は……どんよりとした灰色の重そうな雲が、途切れることなく一面を覆っているな。
「今日も曇りか……」
ここの空は、実際の空と一応連動しているらしい。
手動で切り替えてるからいちいち面倒だ、って職員が愚痴ってた気がする。
体を起こすと、なんの面白みもない、真四角の室内が目に入った。
オレが今座っているベッドの他にあるものと言えば、これまた真四角のローテーブルと、小型の冷蔵庫、薬棚だ。
それも、白いものばかりでうんざりする。
ベッドシーツに手をついて腰を捻り、足を下ろして溜息を吐く。
そんなオレの視界に映るのだって、ゆとりを持った白い研究服だ。
研究する側じゃない、される側。
今時患者衣だってこんなに白くないぞ、知らないけど。
「朝から何を考えてるんだ、オレは……」
無益な思考だった、と反省しながら立ち上がる。
こんな面白みのない部屋での暮らしも、かれこれ10年が経過した。
今さらこの部屋がつまらないことを考えたって、それこそつまらない。
壁を背にした薬棚に近づいて、1段目に並んだ筒の蓋を開けては、手のひらにサプリを出して、を繰り返していく。
今日の朝食を出し終わると、薬棚の隣の小型冷蔵庫から、激マズ汁を1本取り出した。
「さて……」
5錠のサプリと、透明なカップに入ったビビッドイエローの液体をテーブルに置く。
ふぅ、と息を吐いて、オレは体操を始めた。あぁ、現実逃避だ。
膝を曲げて、伸ばして、曲げて、伸ばして。
足を開いたら、左膝を押して筋肉を伸ばし、30秒経ったら、今度は右膝を押す。
体を起こして片足ずつプラプラした後は、左腕を右腕で掬って、グイッと右側に引っ張った。
控えめながらしっかりとオレの性別を表す胸が潰される。
30秒経ったら逆だ。
肩や首を回して、一通り体を解し終わると、いよいよやることがなくなって、テーブルの前に座る。
飲みたくねぇ……。
「ふー……」
あぁ、多少は慣れたさ。
嫌々ながら、カップの蓋を自然に開けるくらいには、体がこの習慣を覚えてる。
カップを掴んで、サプリを摘まんで。
目を瞑って躊躇う時間は、たったの5秒にまで縮んだ。
オレはまず5錠のサプリを口に放り込んで、よし! と一大決心しながらカップに口を付けた。
グイッとカップを傾けると、口の中に侵入してくるピリピリした液体。
そう、最初に感じるのは痛いまでの辛さだ。
次いで、サプリの位置を調整してる間に襲ってくるのは苦味。