「俺は、お前を嫌ってなどいない。これでも、家族として愛している」

「え……? で、でも、僕は兄上の愛情を……っ!」

「忘れたのか。“想い”は、何度でも抱く。……あの日、確かに俺はお前への愛情を失った。だが、それからの日々で再びお前を愛するようになったのだ」

「っ……そん、な…………本、当に……?」


 一度失った愛情は、二度と取り戻すことがない。
 確かに、改めて考えれば、それは“引き受け屋”の戒めと反した思いこみだ。


「俺は、家族を……弟を愛せないほど、冷たい男ではない」


 幼い頃のような、温かい瞳。
 決して大きくはない、けれど心からの微笑み。
 それに加えて、僕の頭に伸ばされた手から伝わってくる、優しさに満ちた“想い”。

 ――あぁ。
 どうして、僕は兄上に嫌われたなどと思っていたのだろう。
 兄上は、こんなにも温かく、こんなにも僕を愛していてくれたのに。


「っ……兄上……!」

「……泣くな。お前も、奏瀬(かなせ)の人間だろう」

「はい……っ」


 どんなに辛いことがあっても、どんなに苦しくとも、決して泣かなかったのに……今は涙を堪えるので精一杯だ。
 頭を撫でられるなんて久しぶりで……家族の、温かい“想い”を感じ取るのも久しぶりで。

 今日は、決して忘れられない日になるのだろうな、とそんなことを頭の片隅で考えた。